2024 園田チャレンジカップ レポート

2024年09月20日(金)

西日本交流の重賞競走、第21回園田チャレンジカップ。去年は兵庫のイグナイターがダートグレードホースの貫禄を示す勝利を挙げた。その後はマイルチャンピオンシップ南部杯(盛岡)で2着、大井のJBCスプリントで兵庫勢初の交流Jpn1初制覇という偉業を達成し、2年連続でNARグランプリ年度代表馬に選出された。

そのイグナイターに、佐賀のサマーチャンピオン(Jpm3)覇者のアラジンバローズは不在。今年の兵庫ウインターカップ、兵庫大賞典、オグリキャップ記念(笠松)を制したタイガーインディが故障で現役引退となり、短距離路線の新興勢力が現れるのか注目が集まる一戦。今年は高知からスピード自慢の3頭がエントリーしてフルゲートで争う。

2014年から10年連続でナイターの実施となる園田チャレンジカップ。今回は傑出馬不在の激戦ムードだ。

単勝1番人気(1.4倍)は高知のカレンロマチェンコ。中央3勝を挙げて去年の春に高知へ移籍。下級条件からの始動も圧巻の内容で連戦連勝。今年の1月に連勝は止まったものの次戦を勝って現在5連勝中。前走は初の園田遠征で不向きの820m戦だったが、厳しい展開でもしっかり勝ち切った。高知在籍になってからは初の重賞挑戦。メンバーは強化されるが勢いは本物だ。

兵庫のベイビーボスが2番人気(3.9倍)。去年の秋に兵庫へ移籍してきた中央4勝の実績馬。休み明けの前走は7ヵ月ぶりで良化途上だったが逃げ切りで勝利して兵庫のA1クラスで2勝をマーク。地元のナイター出走は初めてだが、さらに上積みが見込める叩き2走目で初重賞制覇を狙う。

3番人気(8.3倍)はナムラタタ。今年の新春賞2着、兵庫大賞典3着と兵庫の重賞戦線で安定感のある走りを披露。園田の1400m戦に限ると5勝、3着1回と好成績を挙げている。前走の摂津盃(7着)に続き小牧太騎手とのコンビ。好相性の舞台で悲願の重賞制覇を目指す。

スマイルサルファーが4番人気の10.0倍。
2021年に大激戦の兵庫ダービーを制した兵庫生え抜きの星。同年の西日本ダービー、2023年のくろゆり賞(笠松)を制して重賞3勝を挙げている。古馬になってからは中距離路線を歩んでいたため、1400mの重賞は2021年3月の兵庫ユースカップ以来となる。長期休養明け4走目。ダービー馬が3年ぶりの地元タイトルを狙う。

以降は10倍台でハナブサ、ダノンジャスティス、イモータルスモーク、アドワンと続いた。

出走馬

1番  ハナブサ 広瀬航騎手
2番 ベイビーボス 杉浦健太騎手
3番 スマイルサルファー 大山真吾騎手
4番 (高)イモータルスモーク 大山龍太郎騎手
5番 ミステリオーソ 山本咲希到騎手
6番 バーニングぺスカ 鴨宮祥行騎手
7番 ナムラタタ 小牧太騎手
8番 テーオーターナー 大柿一真騎手
9番 サンライズラポール 下原理騎手
10番 ()カレンロマチェンコ ()赤岡修次騎手
11番 アドワン 田野豊三騎手
12番 (高)ダノンジャスティス (高)畑中信司騎手

レース

スタート

正面スタンド前

1コーナー手前

2コーナー向正面

向正面

3コーナー

最後の直線

最後の直線

最後の直線

ゴールイン

ナイター開催20週目の金曜日は朝から好天。残暑が厳しく日中は35℃近くまで気温が上昇したが、夕方あたりからは秋らしい心地よい風も吹き始めた。それと同時に仕事終わりに現地へ駆けつけた競馬ファンの数も増加。重賞デーらしい雰囲気で発走時刻を迎える。
オレンジ色に染まった幻想的な月が見える4コーナー奥から12頭が一斉にゲートを飛び出した。

スタートは若干バラつきはあったが大きな遅れは無かった。まずは外からメンバー中唯一の牝馬アドワンが勢い良く前に出て先手を主張。内の2番手にイモータルスモーク、外からダノンジャスティスが続く。最内枠のハナブサは好位4番手その後に1番人気のカレンロマチェンコが追走。6番手のインにスマイルサルファー、外にバーニングぺスカ。一列後ろにベイビーボスとテーオーターナーにナムラタタ。後方2頭は並走で内にミステリオーソ、外にサンライズラポールが続いた。先頭から最後方まで15馬身ぐらいで1コーナーから2コーナーへと向かう。

主導権を握ったアドワンは自分のリズムで気分よく逃げる。平均よりも速いラップで残り800mを通過。2馬身後方にイモータルスモーク、ダノンジャスティスが続く。カレンロマチェンコは4番手につけるも余裕が無いのか赤岡騎手の手が動き始める。対照的にスマイルサルファーは良い感じで外から浮上を開始。差が無くハナブサがつける。中団にいたベイビーボスも動き始めるが先頭とは8馬身差で3角に差し掛かる。後方待機のテーオーターナー、ナムラタタは前との差を詰められず早々と優勝争いから脱落した。

逃げるアドワンは楽な手応えのまま4角へ。2番手インで脚をためるイモータルスモークも抜群の手応えで進路を外へと切り替えラストスパートに入る。3番手で奮闘するダノンジャスティスに外からスマイルサルファーが迫ってきた。カレンロマチェンコは5番手に下がると前走のような豪脚は影を潜め馬混みに沈む。ハナブサ、ベイビーボスの2頭も脚色が鈍り後退した。直線に入っても良い粘りをみせるアドワンに対して、じわじわ差を詰めてきたのがイモータルスモーク。残り100mでアドワンを捕らえると先頭でゴール板を駆け抜けた。

2馬身差の2着は逃げて粘ったアドワン。酷暑の夏競馬で良いレースを続けていた重賞勝ち馬が最後まで素晴らしい粘りをみせた。3着はスマイルサルファー、長く良い脚を使ったが前で競馬をした2頭の背中は遠かった。前々で立ち回った一昨年の覇者ダノンジャスティスが4着。後方にいたテーオーターナーが掲示板確保の5着。

2番人気のベイビーボスは8着、3番人気のナムラタタが9着。1番人気のカレンロマチェンコは11着だった。
人気上位の3頭が敗れ、3連単は9万超えの配当。今年の園田チャレンジカップは波乱の結果となった。

◆高知のイモータルスモークは6度目の重賞挑戦で嬉しい重賞初制覇。

獲得タイトル

2024 園田チャレンジカップ

◆デビュー4年目の大山龍太郎騎手は20度目の重賞騎乗で嬉しい重賞初制覇。惜しくも2着に敗れた菊水賞から約5ヵ月後に初タイトルを掴んだ。

◆高知の田中守厩舎は兵庫の重賞5勝目。今年だけで兵庫の重賞3勝目。

◆大山龍太郎騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

デビュー4年目で掴んだ重賞制覇に「めっちゃ嬉しいです」と、ハニカミながら答えた大山龍太郎騎手。インタビュー中に目が潤んでいるようにが見えたのだが、表彰式後本人に確認すると「え?泣いてないですよ」ときっぱり否定をした。暑い中での騎乗で大粒の汗が目に滲んでいたようだ。

近3走は1000m前後の競走に出ていたイモータルスモークとは初コンビだった。「ハミに乗っかってくれて走る馬は僕的に好きだったので、相性は良いかなと思っていました。関係者から折り合いを欠く面があると聞いていましたが、ゲート出てからも良いハミの取り方で安心して乗れました」と、距離延長、折り合い面が心配されていた馬を見事に乗りこなした。

積極的な競馬で2番手のインを確保。抜群の手応えのまま勝負どころを迎えた。「3~4角は持ち切れないぐらい手応えが良かったので『おおっ!』て思いましたね。抜け出してからは『後ろから来ないで』と思いながら乗っていました。馬体もしっかりしていて乗りやすい馬なので今後も楽しみですね」

中央時代は1200~1800mで勝利を挙げていたイモータルスモーク。その後は川崎、高知、名古屋を経て再び高知へと戻った。近4走は1000m前後の競走に挑み全て入着。快速馬達と戦った経験が糧となり、遅咲きの7歳馬が園田で光り輝いた。

重賞レースはゴールの瞬間、またはゴールを通過した後に気持ちが入ったガッツポーズをする騎手が多い。ただ、大山龍太郎騎手はゴールを通過しても冷静だった。田野騎手に声を掛けられると振り返ってニコッと笑ったが激しいアクションは無かった。

「勝ててとにかく嬉しかったですね。ただ、ガッツポーズの仕方が分からなくてどうしたらいいのかな?と考えていまして・・・(馬上で)ピースサインをしてみました」

“龍ちゃん”らしさが溢れるコメントにウイナーズサークルは笑いに包まれた。同時にファンから「可愛い」との声も聞こえた。検量へ引き上げる直前に場内カメラとファンに向かって左手でピースサイン。ゴール付近に集まったファンを喜ばせた。

ここ最近は重賞レースの有力馬に跨る機会が増えた大山騎手。今年の菊水賞ではクラウドノイズで2着と初タイトルまであと一歩というレースがあった。

「重賞レースで良い馬に乗せてもらう機会が何度もあったのですが、期待に応えられず悔しい思いをしていました。今回最高の結果を残せて嬉しいなと改めて思います」と、これまでの悔しさを見事に大舞台で晴らした。

検量へ引き上げると大山騎手は同期の長尾翼玖騎手とグータッチ。レース後には佐々木世麗騎手も勝利を祝福した。同期の2人だけではなく、他の若手騎手達にも刺激を与えたことであろう。他地区では新進気鋭の若手騎手が重賞制覇を挙げたり、リーディング上位に食い込むなどの活躍を見せている。

近年、兵庫も若手騎手の活躍が増加しているものの上位騎手の牙城を崩せずにいる。その最中で弱冠20歳の昇り龍が大きな殻を破った。
百戦錬磨のベテランにメキメキと力をつけている若手が牙を向く。さらに過熱していく兵庫県の秋競馬から目が離せない。

総評

表彰式直後に高知の田中守調教師にお話を伺った。「カレンロマチェンコと差はない馬だと思っていました。名古屋から戻ってきてもFCスプリントの時ぐらいの状態でしたよ。ただ、相手強化と距離延長、1000m前後の距離中心に使っていた点は気になりましたが、4角は抜群の手応えでもしかしたら?と思いました。高知の1400mでも強敵相手に良い時計で走っていたのでここならと思っていましたね」と、強敵相手に戦ってきた経験が今回に活かされた。
「FCスプリントも2着でしたし、園田コースが合うのかもしれませんね。器用さもあるので自在に戦えるのも武器です。来月の園田ゴールドカップを目標に調整していきます」と、好相性の園田で重賞連勝を狙う。

「最大の勝因は騎手が最高の位置取りと乗り方をしてくれたことです。完璧な内容でした」と、田中守調教師は勝利に導いた大山龍太郎騎手を絶賛した。
「特に指示はしていなくて気楽に乗ってもらいました。2番手のインからスムーズに抜け出して来ましたし、最高のレースをしてくれました」と、4年目期待のジョッキーを褒め称えた。


なお、高知勢の園田チャレンジカップ制覇は2度目。2年前の勝ち馬ダノンジャスティスは今年も4着と健闘した。今年だけで高知所属馬は兵庫の重賞を4勝している。中央、南関東で活躍した馬が高知でもうひと花を咲かす馬もいるが、プリフロオールインやシンメデージーなどの強い生え抜き馬を輩出。全国各地の交流重賞での活躍も光るだけに兵庫勢にとっては今後も脅威な存在となるだろう。

兵庫の短距離路線はイグナイター、アラジンバローズの2頭は秋のダートグレード戦線を目指して調整をされている。今年だけで重賞3勝を挙げたタイガーインディは佐賀のサマーチャンピオン3着後に故障。残念ながら現役引退となった。新星登場が期待された今回の園田チャレンジカップは牝馬のアドワンが逃げて2着と好走。2022年の園田プリンセスカップ勝ち馬が酷暑の夏に強い競馬を披露していたが重賞でも魅せた。まだA2クラスの身だが今後が非常に楽しみだ。

今後も他地区との交流重賞が続く。屈強の遠征馬を地元勢が一蹴する姿をみたい。


 文:鈴木セイヤ
写真:齋藤寿一 

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