2024 姫山菊花賞 レポート
2024年09月26日(木)
Road to JBCの一戦として行われる重賞「姫山菊花賞」は、南関東・北陸・東海・近畿交流戦。5頭の他地区馬の出走枠があるが、強力な地元馬がいたこともあってか近年は1~3頭の遠征に留まっていた。
今年は8年ぶりにMAXの遠征馬5頭が参戦し、地元馬5頭との計10頭で行われた。(ダッシュダクラウンは出走取消)
1番人気は、単勝2.1倍でキリンジ。
3歳時に兵庫チャンピオンシップ(Jpn2)2着、ジャパンダートダービー(Jpn1)2着と世代屈指の実力を見せ、今年も佐賀記念(Jpn3)2着、名古屋グランプリ(Jpn2)3着とダートグレード制覇まであと一歩の走りを続けた中で兵庫へ移籍。2走前の転入初戦は辛勝、前走の摂津盃はスローペースに泣き3着に甘んじた。窮屈な場所での競馬を余儀なくされた上に、他馬より重い58kgのハンデもあったのか勝負所でスッと動けなかったことが災いした。課題を払拭し、無冠返上なるか。
2番人気は、船橋のユアヒストリー(単勝3.8倍)。
元JRA4勝馬で地方移籍後は重賞勝ちこそないものの安定して好走を続ける。前走の六甲盃は後ろの馬を警戒するあまり、逃げるラッキードリームを捕らえ切れず惜しい2着に終わった。夏は放牧に出てリフレッシュ、3ヶ月半ぶりの実戦でこちらも初タイトルを狙う。
3番人気は、単勝6.2倍で ミステリーボックス。
前走の摂津盃では6番人気ながら重賞初制覇を果たした。道中は柏原厩舎の3頭で前を固める中、スローペースの2番手追走。53kgの軽ハンデをうまく生かしての勝利だった。今回は定量戦の上、他地区からの遠征馬も元JRAオープン馬がズラリ。真価が問われる一戦だ。
さらに、2021年武蔵野S(G3)優勝馬のソリストサンダー(大井)が単勝6.9倍で4番人気、 前走イヌワシ賞(金沢)で2着だったパワーブローキング(船橋)が9.9倍の5番人気で続いた。単勝10倍以下が5頭いてやや混戦ムードだった。
出走馬
レース
ゴールイン
2ヶ月以上にわたって長く続いた猛暑も週末の雨を境にようやく終わりを迎えた。空気が入れ替わって比較的過ごしやすくなったが、それでも気温は31℃台。若干の薄雲は広がっていたものの良いお天気の下、良馬場でレースを迎えた。
ゲートオープンと同時にウインドケーヴが今回も抜群のスタート。スタート直後には1馬身出てそのまま難なく先手を奪った。一方、ソリストサンダー、パワーブローキング、ベストオブラックは若干の出負け。
キリンジは五分のスタートから気合をつけられ、1周目3コーナー入口では2番手に取りついた。ミステリーボックスがインの3番手を取り、出負けから巻き返したソリストサンダーが好位の外。序盤3番手を伺うかに見えたユアヒストリーは好位馬群真っ只中の5番手に。
中団にはプライドランド、トランスナショナルがいて、マッドルーレットがその後ろ。スタート後手のパワーブローキングは後方から2頭目となり、最後方がベストオブラック。
スタンド前ではペースが落ちてゆっくり流れていたが、1コーナー手前でプライドランドが大外から一気に押し上げて好位へ取り付いたことでペースが上がり、馬群全長10馬身ほどで向正面へと出ていく。
残り800m付近で2番手を追走するキリンジ鞍上の下原騎手が促し始めると、逃げるウインドケーヴもそれに合わせてペースアップ。3番手のミステリーボックスも遅れることなくついていく。
3~4コーナーでは一旦離されかけたユアヒストリーとソリストサンダーが再び差を詰めにかかり、最内からはマッドルーレットが、大外からパワーブローキングも好位の後ろまで進出。
ウインドケーヴの外にキリンジが並びかけて最後の直線へ。キリンジがわずかに先頭に立ったが、思ったほど伸び脚がない。内からはミステリーボックスがじわじわと差を詰め、さらに外からはパワーブローキングがぐんぐん脚を伸ばしてくる。1列後ろでユアヒストリーは外に出せず、進路を切り替えるロスがあった。
3頭並んだ一番外から鮮やかな切れ味を見せたパワーブローキングがクビ差出たところがゴール、重賞初制覇を果たした。
2着はミステリーボックス。ロスなくインを立ち回るレースで、道中目標にしていたキリンジをクビ差ねじ伏せた。キリンジは伸びきれず、摂津盃に続いて今回も3着。初タイトルはまたもお預けに。
4コーナーではまだ後方にいた2頭がゴール寸前で強襲。ベストオブラックが4着、トランスナショナルが5着に健闘。2番人気のユアヒストリーは窮屈な競馬を余儀なくされ6着に敗れた。
◆船橋のパワーブローキングはこれで25戦6勝。元々はJRA4勝馬で、去年のアンタレスS(G3)で4着に好走するなどダート中距離の実績があった馬。重賞は4度目の挑戦で初制覇となった。
獲得タイトル
2024 姫山菊花賞
◆川島正太郎騎手は重賞通算13勝目。2015年の船橋記念をナイキマドリードで勝って以来、約9年半ぶりの重賞制覇。
園田競馬場での騎乗は9年ぶり2度目だった今回、兵庫重賞初勝利を果たした。
◆佐藤裕太厩舎は重賞通算14勝目(今年5勝目)。こちらも兵庫重賞は初勝利。
◆川島正太郎騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
「大変嬉しいです!」と約9年半ぶりの重賞制覇を喜んだ川島正太郎騎手。
本来好位からレースをすることが多いパワーブローキング。「前目の位置には取り付きたかった」と川島騎手も話したように、後方2番手という位置取りは予想に反したものだった。
しかし、「自然の流れであの位置取りになったしまいました。この馬のリズムを大切にして馬を信じるだけでした」と慌てることなく機を伺っていた。
「ホームストレッチでペース上がった感じがしたので、すごくレースがしやすかったです。うまく展開が向いてくれた」と早目に各馬がペースを上げる展開をしっかり味方につけた。
「強敵揃いだったので最後までかわせるか分からなかったですけど、馬がよく頑張ってくれました。感謝します」とコンビを組んで3戦目の愛馬を労った。
「この馬の良いところは乗り手に従順で操作性が高いところ。このままステップアップしてさらに強い相手と戦っていけるように。自分自身も馬についていけるように頑張ります」と今後の飛躍を誓った。
川島正太郎騎手の父は、アジュディミツオーやフリオーソなどを管理した名伯楽・川島正行元調教師。パワーブローキングを管理する佐藤裕太調教師は、騎手時代、川島師の1番弟子であり、川島騎手にとってデビューの頃の兄弟子に当たる。
川島正行元調教師が亡くなられてこの9月でちょうど10年。その節目に縁の深い2人が重賞制覇を果たした。しかも、佐藤師と川島騎手のコンビでの重賞制覇は初めて。園田で挙げたこの1勝はきっと特別なものになったことだろう。
総評
「スタートで少し遅れてしまって、これだと厳しいかなと思っていました。前でレースができるところがセールスポイントの馬ですからね」と道中は不安を抱きながらレースを見ていたという。
中央4勝馬でまだ5歳。レースに自在性が増して、さらに上が目指せそうだ。
2着のミステリーボックスは、前走摂津盃で初重賞制覇を果たしたものの枠順、展開、ハンデがうまく噛み合ってのもので、吉村騎手も「前走は恵まれた」と話した。
今回については「狙い通りの位置が取れたし、やめてしまう面を出さずに最後までしっかりと走れていた。元々力のある馬なので、集中して走ればやれるとは思っていた。一線級を相手によく頑張った」と評価した。
「今後は外を押し上げないといけない展開になった時にもどれだけ集中して走れるか」と、途中で自らやめてしまう面をいかに出さないかが鍵となる。
1番人気で3着に敗れたキリンジ。
3着という結果について下原騎手は「ショックです」とまずは一言。
「2番手を取れて理想的な展開。その時点で勝てると思って乗っていました。前半はスローに落ち着いた流れも良かったです。1角手前でプライドランドが動いてきてペースが上がったのはやや誤算でしたが、3~4コーナーで一旦息を入れることもできました。直線先頭に立ってどれくらい弾けるかという感じだったんですが、抜け出すとソラを使った感じで・・・」と首を捻った。
「本当に難しい馬です」と下原騎手が何度か繰り返したように、気性面の課題が出てなかなか全能力が発揮できないもどかしさが続いている。Jpn1でも2着があるように間違いなく力はある。次こそその能力が遺憾なく解き放たれることを期待したい。
4年前はエイシンニシパが優勝、3年前はジンギ。そしてここ2年はラッキードリームが連覇していた姫山菊花賞。橋本厩舎の2頭はこの夏引退し、ラッキードリームは大井へと移籍した。
兵庫中距離界の王座が空席となった中で、12/5の「園田金盃」を迎えることになる。
昨年のグランプリホースであるスマイルミーシャは今秋は兵庫クイーンカップでの復帰を予定。園田オータムトロフィーをステップに3歳馬も何頭かはグランプリに駒を進めるだろう。また1400m戦線から挑戦する馬も出てくるかもしれない。
混迷を極める中距離界の次なるエースを決める師走のグランプリを楽しみに待ちたい。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一