2023 兵庫ダービー レポート
2023年06月14日(水)
兵庫三冠の第3戦、最終戦は「兵庫ダービー」。
今年のダービーは、菊水賞を逃げ切った牡馬ベラジオソノダラブと2着だった牝馬スマイルミーシャの二強ムード。
初対戦は昨年末の園田ジュニアカップ。
ベラジオソノダラブをマークしながら好位でレースを進めたスマイルミーシャが3~4角で一気に外から上がって先頭に立つと、直線しぶとく食い下がるベラジオソノダラブにクビ差競り勝って優勝した。
2度目の対戦となった菊水賞では自分のリズムで逃げたベラジオソノダラブが粘り切り、大晦日のリベンジを果たした。スマイルミーシャは悔しい初黒星。
菊水賞後は、兵庫チャンピオンシップ、のじぎく賞と別の路線を歩んだ世代代表の牡馬と牝馬。
お互いに1勝1敗の対戦成績で迎えた二頭が、2020年生まれ世代最強の称号をかけて三度相まみえた。
1番人気は単勝1.8倍で牝馬のスマイルミーシャ。
昨年は4戦全勝で「最優秀2歳馬」の称号を得たが、休み明けで馬体重-20kgで臨んだ前々走の菊水賞は2着と初黒星。牧場から戻ってきた際に大きく馬体が減っており、強い負荷をかけられなかったことも多少なりとも影響したはずだ。
しかし、前走のじぎく賞では2コーナー過ぎからのロングスパートをものともせず6馬身差の圧勝。今回、初めての1870m戦とはなるが、折り合いもつきレースセンスも抜群の馬。盤石の態勢でダービーを迎えた。
一方、菊水賞馬ベラジオソノダラブは単勝2.4倍の2番人気。菊水賞を逃げ切った後は、兵庫チャンピオンシップに出走。
スピードのあるJRA馬相手に好位で流れに乗り、4コーナーでは一瞬3着はあるかに見えたが、序盤から速いラップでの追走だったこともあって最後は5着。ただ、地方最先着は譲らなかった。
道中の折り合い面に課題がある分1870m戦は最良ではないが、自分のペースでレースができさえすれば、その強さに疑う余地はない。
この二強に待ったをかけるべく名乗りを挙げたのがビキニボーイ。単勝6.3倍の3番人気を支持を集めた。
スタートからの進みがいつも良くないため後ろからのレースを余儀なくされていた馬が、前走は転入後初めて好位からレースができた。そこからいつもの末脚をしっかり使って1.7秒差の大差勝ち。
スマイルミーシャと同じ飯田厩舎所属馬が、菊水賞4着からの逆転を目指す。
4番人気以下はオッズが大きく開いた。グロリアドーロは単勝25.4倍。菊水賞5着だったが、距離延長は歓迎の一頭。スタミナ豊富な追い込み馬の背には、金沢の名手・吉原寛人騎手。さらに、3連勝でJRA交流戦を勝って出走を決めたオオエアクティブが単勝26.3倍で続いた。
出走馬
レース
スタート
1周目向正面
1周目3コーナー
1周目スタンド前①
1周目スタンド前②
2周目2コーナー
2周目向正面
2周目4コーナー
最後の直線①
最後の直線②
ゴールイン
上空は曇り空。時々小雨がぱらつくも、レースに大きな影響はない程度だったが、週末の雨の影響が残って馬場状態は稍重。
まだまだ明るさの残る17時55分、荘厳なダービーシリーズのファンファーレに拍手が沸き、兵庫ダービーのゲートが開いた。
スタートではヒメツルイチモンジが若干出負け。抜群のスタートを決めたオキザリスレディーがそのまま逃げていき、スマイルミーシャはダッシュ良くその直後の2番手を取った。大外枠のベラジオソノダラブも発馬は五分だったが、二の脚の差で一瞬遅れた分、スマイルミーシャの外、3番手の位置に収まった。
4番手グディカンワルの直後で、ビキニボーイが前回同様に好位ポジションを確保。6番手にオオエアクティブ、中団にヒメツルイチモンジとムーンローバー。後方はばらけて、カレーパン、サインポールと続き、今回もグロリアドーロは後方待機、最後方にカタラとなった。
序盤は一旦20馬身ほどに伸びた縦長の馬群も、1~2角では10馬身ちょっとに詰まり、比較的落ち着いた展開に。
2周目向正面に入ったところから、2番手のスマイルミーシャに早くも吉村騎手がGoサイン。逃げていたオキザリスレディーを難なく抜いて先頭に立つと、ベラジオソノダラブもぴったり外からついていく。
その2馬身後ろの3番手以下も置いていかれまいと一斉に追い出しを開始するが、前2頭との差は少しずつ離れていった。
3~4角にかけ、ベラジオソノダラブを振り切ってスマイルミーシャが少しずつリードを取りはじめる。3番手にビキニボーイとオオエアクティブ、後方待機のグロリアドーロが良い伸び脚でこの争いに加わった。
4コーナーから直線に向くところで、スマイルミーシャが2馬身リード。ベラジオソノダラブも必死に食い下がるがもはや脚色は勝負ありの感。3番手争いは、オオエアクティブが脱落して、ビキニボーイとグロリアドーロの競り合いに。
最後は3馬身突き放したスマイルミーシャが見事10年ぶり牝馬による兵庫ダービー制覇を成し遂げた。強いライバルに真っ向勝負を挑みながらも2着に粘ったベラジオソノダラブもさすがは菊水賞馬という走りだった。そこからさらに3馬身離れてグロリアドーロが3着。人気馬がしっかりと実力を示した今年の兵庫ダービーだった。
◆スマイルミーシャはこれで7戦6勝、重賞3勝目。牝馬の兵庫ダービー制覇は10年ぶり4頭目となった。
<牝馬の兵庫ダービー馬>
①アヤノミドリ 2000年
②メイレディ 2012年
③ユメノアトサキ 2013年
④スマイルミーシャ 2023年
獲得タイトル
2022 園田ジュニアカップ
2023 のじぎく賞、兵庫ダービー
◆吉村智洋騎手は重賞44勝目(今年3勝目)。2019年にバンローズキングスで優勝して以来、4年ぶり2度目の兵庫ダービー制覇。
◆飯田良弘厩舎は重賞5勝目(今年2勝目)。開業12年目にして兵庫ダービー初制覇。飯田調教師は6年ぶり3度目の挑戦で見事ダービートレーナーとなった。
◆吉村智洋騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
吉村騎手は「スタートからしっかり張り込んで、悔いのない競馬をすれば負けない」と自信を持って大一番に臨んでいた。
「自分も乗ったことのあるオキザリスレディーはスピードのある馬なので(自分は)2番手かな」と想定通りの展開に持ち込むと、その外の3番手にベラジオソノダラブがぴったり来るのも「思惑通り」。
スマイルミーシャはスタートをしっかり決め先手を打てたことで、枠順の並びを最大限に活かし、ベラジオソノダラブを外の3番手にならざるを得ない形に追いやった。
「ベラジオも仕掛けてくるタイミングでサッと動きました。(手応えは)前走ほどはガッツリ来ていなかったですけど、押し切って貰わないと。馬を信じて頑張りました」と、2角過ぎからのロングスパートについて振り返った。
「体力もありますし、前半もしっかり折り合っていました。ここからなら凌げる」という強気のGoサインは、愛馬への信頼の証左。
「菊水賞は敢えて控えたのが結果的に失敗だった」と悔しさを滲ませていた吉村騎手。今回はベラジオソノダラブよりも前で自ら主導権を握り、先手先手でレースを進めた強気の騎乗が勝利に直結した。その鞍上の信頼に3馬身差という形で応えたスマイルミーシャもさすがという他ない。
“親分”飯田良弘調教師にダービートレーナーの称号をプレゼントした吉村騎手。「負けたら親分に怒られちゃうんで。菊水賞でしくじったという感じもあったんで。のじぎく賞の祝勝会でBBQをした時に、ダービーを獲ってもう一回しましょうと話していました。もう一回美味しいお酒が飲めますね」と饒舌だった。
初めてダービーを勝った飯田師は、喜びを噛み締めながら表彰式後に囲み取材に応じた。
「3馬身差というのは立ち回りの差、枠順もこちらに向いたかな。相手は3頭分の外を回ったロスがあったと思う」とライバルと目されたベラジオソノダラブ陣営を気遣った。
「牝馬なのでまさかこの馬がダービー馬にという思いです。2歳の時は入れ込んでパドックでも落ち着きがなかった馬が今日は落ち着いて周回できていた。大人しすぎるかなと思ったくらい。スイッチの切り替えも備わってきたのかな、その分でレースでしっかり走れるようになった」と成長に目を細める。
今回の馬体重は-4kgで、菊水賞と同じ477kgだった。「前走より少しはプラスで持っていきたかった」のが本音だったようだが、元々の食の細いタイプで、加えて汗を良く掻く時期でもあるし問題はなかったという。
「以前休養に出した時に大きく体を減らしてしまったように調整が難しい馬なので」と、ダービーのダメージの程度も見ながらこの夏の過ごし方については慎重に考えている。
馬主の松野真一氏は、一昨年のスマイルサルファーに続く2頭目のダービーオーナーとなった。
毎年新馬を2頭購入し、飯田厩舎と渡瀬厩舎に1頭ずつ預けるのが決まったスタイル。例年、新馬の勝ち上がり率の高さも目を見張るものがあるが、今年は渡瀬厩舎のスマイルジョナスが笠松のぎふ清流カップを制し、スマイルミーシャがダービー馬という2分の2で重賞を射止めている。
馬の素質を見抜く相馬眼は天晴れ、スマイル軍団の勢いはまだまだ続くに違いない。
総評
「1870mをこなしてくれたので」と、秋には他場の強い馬が集まる西日本ダービー(9/10 佐賀2000m)参戦も選択肢の一つだが、同時期には園田オータムトロフィー(9/7 園田1700m)もある。
いずれこういった各地を代表する馬同士との激突を楽しみ待つファンも多いだろう。
「しっかりと菊水賞の負けを返し、世代最強だということも証明した」可憐な女王の次なる戦いからも目が離せない。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一