2023 兵庫ウインターカップ レポート
2023年02月23日(木)
元々は2017年に古馬短距離路線の充実を図るため「園田ウインターカップ」として創設された「兵庫ウインターカップ」。
2021年、開催地が姫路に移ったことで今の名称に変更、同時に全国交流重賞となってから今年で3年目を迎えた。
今年は、川崎から2頭、大井から1頭の他地区馬3頭を加えた10頭で行われた。
去年の1、2、3着馬が顔を揃えた今年の一戦。
川崎のインペリシャブルは去年、伏兵の10番人気ながら、道中インで脚を溜め、直線はスムーズに外に出して差し切り勝ちという鴨宮騎手の神騎乗が光った。
今年は金沢の名手吉原寛人騎手に手綱は変わったが、去年東海桜花賞を勝っているコンビだ。
今年は佐賀ゴールドスプリントで3着からの臨戦となり、主役候補の1頭として連覇を狙った。
同じく川崎所属で去年2着のベストマッチョ。10歳にはなったが、笠松グランプリで3着とこちらもここまで衰え知らず。
そして去年3着の地元馬サンロアノークは、前走笠松の白銀争覇で悲願の初タイトルを獲得。今年は堂々重賞ウィナーとして参戦した。
それらに加えて注目を集めたのは3頭目の遠征馬、大井のマックスだった。前走佐賀ゴールドスプリントは、初の遠征、初の重賞挑戦で2着。
めきめきと力をつけてきた上がり馬が初重賞制覇を目論んで姫路にやってきた。
その他には、去年ノンタイトルながらも佐賀サマーチャンピオン(JpnⅢ)で2着と好走、一昨年の園田チャレンジカップ以来の重賞勝ちを狙うコウエイアンカや、
得意の姫路で再び軌道に乗りたいエイシンビッグボス、かつてはオープンまで7連勝した、紅一点パールプレミアなど重賞ウィナーらが顔を揃えた。
去年の上位馬が揃ったが、蓋を開けてみると、それらリピーターをおさえてマックスが単勝2.9倍の1番人気に支持された。
去年の覇者インペリシャブルが2番人気4.0倍、3番人気はサンロアノークで差のない4.3倍。ベストマッチョが6.7倍、コウエイアンカが7.1倍で続き、
南関東馬と地元実績馬が入り混じる混戦模様となった。
枠入りでは、例によってコウエイアンカが若干ゲート入りを嫌ったが、今回は比較的時間をかけずに収まった。好スタートを決めたのはパールプレミアとマックス。
対照的に連覇を狙うインペリシャブルは立ち遅れ、最後方からの競馬に。
好発からすんなりとハナを取ったパールプレミアが主導権握り、エイシンビッグボス、ベストマッチョが続いて先団を形成。スタートを決めたマックスは無理せず好位のインにつける競馬。サンロアノークが好位の外、スタート後手から巻き返してインペリシャブルが後方から4頭目、その内でコウエイアンカが続いて、向正面へ。
久々に自分の形、逃げの手に持ち込めたパールプレミアがマイペースで運び、3角手前までほぼ隊列変わらず、この間、好位で運んでいたサンロアノークは、
早めに吉村騎手が鞭を入れて促すも上昇できない。
一方、後方になったインペリシャブル、コウエイアンカもなかなか前との差を縮められないまま、3、4角中間に入る。
マックスが内から外へと進路を切り替え、2番手に浮上、パールプレミアは徐々にピッチを上げて後続と2馬身差をつけて直線へ。
パールプレミアが1馬身半リードを保ったまま、直線残り150m。外から追いすがるマックス、コウエイアンカが馬群の中からじわじわ追い上げて3番手に浮上、
サンロアノーク、インペリシャブルは後方で伸びあぐねる。
残り50mでも脚色衰えず、粘りを見せるパールプレミア、じわじわ差を詰めるマックス。ゴール手前、この2頭の一騎打ち。最後の最後はマックスに半馬身迫られたが、全国交流の舞台でパールプレミアがまんまと逃げ切ってみせた。鞍上笹田知宏騎手の序盤の判断、絶妙なペース配分が久々の重賞勝利を呼び込んだ。
マックスは2度目の重賞挑戦も惜しい2着。3着は4馬身離れてコウエイアンカ。格好は付けたがいつもの鬼脚は鳴りを潜めた。
4着に8番人気のタガノプレトリアが善戦。新子厩舎の2頭が人気薄ながら1着、4着と改めて層の厚さをみせた。サンロアノークは道中の反応が今ひとつで、
インペリシャブルもスタートの後手が響く形となった。
2021年名古屋の若草賞以来となるパールプレミア2度目の重賞制覇は、単勝7番人気、32.1倍というあっといわせる金星だった。
曇天の空の下、無傷の姫路で輝き放ったパールプレミア。これで姫路は無敗の3勝目。混戦ムードの全国交流は、紅一点の鮮やかな逃走劇で幕を閉じた。
パールプレミアが久々に逃げの形に持ち込んで優勝。
自身にとって2021年名古屋の若草賞以来、2度目の重賞制覇となった。
獲得タイトル
2021 若草賞(名古屋)
2023 兵庫ウインターカップ
笹田知宏騎手は重賞11勝目。新春賞をアキュートガールで制したのに続き、今年2勝目。
本レースは園田開催時の2019,2020年にナチュラリーで連覇しており、通算3勝目と相性の良さをみせた。
新子雅司厩舎は重賞55勝目。イグナイターで圧勝した高知の黒潮スプリンターズカップに続いて、今年3度目の重賞勝利となった。
本レースは、2019,2020年にナチュラリーでの連覇以来、笹田騎手との師弟タッグでの3勝目。
新子厩舎は、先日のNARグランプリ表彰式典で年度代表馬イグナイターが表彰されたばかり。花を添える勝利となった。
加えて4着のタガノプレトリアの健闘もあり、「新子厩舎、ここにあり」をまざまざと見せつけた。
出走馬
レース
気温は13℃台。この日は当週の3日間連続開催の中では最も暖かい気温の下、競馬が行われていたが、夕方になってからは陽が遮られ、若干冷たい空気の中、
メインの発走時刻を迎えた。馬場状態「やや重」でスタートが切られた。
スタート
6パールプレミアと1マックスが好発。8コウエイアンカは五分のスタート、前年の覇者9インペリシャブルは後手を踏み、最後方からの競馬に。
ホームストレート
6パールプレミアが好スタートからすんなりハナへ。久々に逃げの形に持ち込む。2番手に10エイシンビッグボス、3番手に去年2着の3ベストマッチョが続いて、好発を決めた1マックスは無理せず、そのインの4番手に控える形。
その外に4サンロアノーク、2タガノプレトリアが好位から中団を形成。
1~2コーナー
後方は、スタート後手から巻き返す9インペリシャブル、並んで内を立ち回る8コウエイアンカ、
置かれ加減で5ネクストムーブと7マイネルサーパスが最後方を追走。隊列は15~16馬身も、先頭集団は一団でペースはさほど上がらない。
向正面
リード1馬身半、マイペースで運ぶ6パールプレミア。2番手以下、3ベストマッチョ、10エイシンビッグボス、1マックスが続き、ほぼ隊列変わらず。徐々にピッチが上がる中、5番手の外につけた4サンロアノークは吉村騎手が早めに鞭を入れて促すも反応鈍く、ポジションを上げられない。
8コウエイアンカ、9インペリシャブルも前との差6,7馬身を縮められないまま3角を迎える。
3~4コーナー
鞭が入り、後ろを離しにかかる6パールプレミア。その2馬身後方、2番手3ベストマッチョに1マックスが外に切り替えて並んでくる。
4番手4サンロアノーク、その内を進んで8コウエイアンカがポジションを上げる。
最後の直線①
残り200m、1馬身半のリードを保ったまま6パールプレミアが先頭をキープ。外から1マックスが追いすがる。この2頭が抜け出し、一騎打ちムード。
最後の直線②
一杯になった3ベストマッチョに代わって8コウエイアンカが3番手に、内から4タガノプレトリアが4番手に上がってくる。
最後の直線③
逃げ粘る6パールプレミアに、ジリジリ迫る1マックス。その差がなかなか縮まらない。
ゴール目前、ようやく馬体が合うも時すでに遅し。半馬身のリードを守り、6パールプレミアがまんまと逃げ切り勝利。1マックスも懸命に追い詰めたが、体半分届かなかった。4馬身差で8コウエイアンカがなんとか3着に入った。
1着パールプレミア、3着コウエイアンカが上がり3F2位の38.0、2着マックスが1位の37.7、4着タガノプレトリアが4位の38.3 という結果に。
後続には厳しい流れとなった。
鞍上の笹田知宏騎手は、好スタートから迷わずハナへ。久々の逃げの手で勝利に導いた。
「本馬場に入る前に、(新子)先生と”ゲート出たら思い切った競馬をしてみます”と伝えて、先生も”気分を害さないように乗ってきてくれ”と言われたんで」と笹田騎手。勝利の要因となった逃げについては、レース前に思い描き、そして新子師とそのプランを共有していたことを明かした。
その思惑通り、好スタートを決めて、すんなり逃げの形に持ち込めた。
「ちょっとここ最近は我慢させる競馬を続けてしまったので馬にはストレスががかかっていたんですけど、今日は思い切った競馬をしてみようと思って。
それが良かったのか、今日は終始気分良く走ってくれてたんで」と新子師の注文通り、気分良く走らせてレースを運んだ。
マイペースのまま先頭をキープも、4コーナーから大井のマックスが迫り、最後は一騎打ちとなった。
「4角からずっと足音が聞こえていたので、なんとか(もってくれ)の気持ちだったんですけどね。
本当に最後までよく頑張ってくれたと思います」と鞍上は愛馬を讃えた。
「この馬はずっとデビューの時からコンビを組んでるんでね、こうやってまた大きいところを勝たせてもらえるってなると、感慨深いものがありますね」。
パールプレミアの全21戦中、実に20戦コンビを組んでいる笹田騎手。残りの1鞍は落馬負傷で戦線離脱を余儀なくされた時期のものだ。
自身にとって”特別な馬”での勝利に、インタビュー中は自然と笑みが溢れた。
「この馬はずっとデビューの時からコンビを組んでるんでね、こうやってまた大きいところを勝たせてもらえるってなると、感慨深いものがありますね」。
パールプレミアの全21戦中、実に20戦コンビを組んでいる笹田騎手。残りの1鞍は落馬負傷で戦線離脱を余儀なくされた時期のものだ。
自身にとって”特別な馬”での勝利に、インタビュー中は自然と笑みが溢れた。
笹田騎手にとっては新春賞に続き、早くも今年の重賞2勝目となった。これに関しては「本当に良い時に乗せてもらっているだけなんで」と謙遜していたが、今年の2勝は陣営の仕上げに加えて、笹田騎手の手腕によるところも大きいだろう。ずっとコンビを組んでいたことが実を結んだ。
「まだまだ使っている回数は少ないのでこうやって成長は見せてくれていますし、大きいところで戦える力は見せてくれているので
これからも皆さんに見てもらえるように頑張りたいですね」と最後は今後への期待と意気込みを語ってくれた笹田騎手。
強力南関東勢を破った自信を胸に、これからもパールプレミアと人馬一体で挑み続ける。
笹田知宏騎手 優勝インタビュー
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
総評
「前走時よりもちょっと元気が出て、馬はすごくいい状態で作ってもらってたんで」と笹田騎手が振り返ったように、
管理する新子師は全国交流でもしっかり勝負になる状態でレースに送り届けた。
「ナイス騎乗!」と愛弟子を讃えた新子師は4着のタガノプレトリアについても「次につながるレースが出来た」とコメント。
新子厩舎の伏兵は伏兵ではないと改めて層の厚さを世に知らしめた。
管理する保利良平調教師は「この時期でも走らないことはなかった。次はもっと良くなる」と悲観はしていなかった。
5着に甘んじたサンロアノークも「直線は確実に寄せてくる面も、道中の手応えもいつもと違う感じだった」と吉村騎手が振り返るように本来の走りにはなかった模様。地元実力馬の巻き返しにも期待したい。
パールプレミアの次走はまだ白紙のようだが、去年まで厩舎を支えたステラモナークが去った今、アキュートガール共々、厩舎における看板牝馬を担うことになるのは間違いない。
NARグランプリ2022年度代表馬イグナイターや兵庫最優秀中長距離馬ラッキードリームなどスター揃いの厩舎にあって、
それら男馬に負けない輝きをこれからも放ち続けてもらいたい。
写真:齋藤寿一
文:木村寿伸