2023 園田オータムトロフィー レポート
2023年09月07日(木)
兵庫県競馬では、今年兵庫ジュベナイルカップが創設されるまで最も新しい重賞であった「園田オータムトロフィー」。2018年に創設され、今年でまだ6回目と歴史は浅いが、去年はエコロクラージュがここを制した後、楠賞でも勝利を挙げ、世代のトップへと飛躍を遂げた。兵庫の令和4年特別優秀馬に選ばれたのも記憶に新しい。
今年は、この世代を2歳時から引っ張ってきた兵庫ダービー馬スマイルミーシャと菊水賞馬ベラジオソノダラブが秋初戦から激突。
中央から転入後、無傷の4連勝で、前走はトライアルのクリスタル賞を勝ったフラフは残念ながら脚部不安で回避。これによって世代の勢力図は変わらず、これまで同様、2強対決の様相を呈していた。
この2頭は実に4度目の対戦となるが、ここまではスマイルミーシャが2勝1敗で一歩リード。
ベラジオソノダラブの逆襲か、スマイルミーシャが返り討ちにするのか、はたまた下馬表を覆す馬が出てくるのか、少数精鋭の9頭が顔をそろえた。
1番人気はスマイルミーシャで単勝1.1倍。菊水賞で唯一2着と土がついたが、その後は3連勝の負け知らず。のじぎく賞、兵庫ダービーと完勝し、世代のトップに君臨すると、7月の初となる古馬相手のB1戦も楽々と先行抜け出し、2着に5馬身差をつける快勝を見せた。この中間は夏の暑さも影響してかやや活気不足だったものの、最終追い切りではしっかりした動きを見せ、飯田調教師も臨戦態勢は整ったと判断した。
2番人気はやはりベラジオソノダラブだったが、単勝は4.4倍とスマイルミーシャとは人気にやや差ができた。
それでも3番人気以下は20倍以上のオッズであることを考えるとやはり2強と目されていたのに変わりない。ダービー後、この中間はリフレッシュ休養を挟んだが、その間、一時体調を崩していたこともあり、馬体が緩んだ状態で入厩してきた。馬を回復させつつ、追い切り本数を増やして急ピッチで調整。何とか上昇カーブを描いて出走にこぎつけた。
3番人気は今年のグランダムジャパン・3歳シーズンの覇者マルグリッドで20.5倍。
本来は前日の名古屋・秋桜賞を狙っていたが出走叶わず、ここに矛先を向けた。
前走の兵庫サマークイーン賞は強力遠征馬を含む古馬相手に完敗ではあったが、
関東オークス5着が示すように地力は上位。再び同世代相手ならその末脚が光る。
その他、クリスタル賞でスムーズさをやや欠きながらも4着に入ったブエラフェルテが4番人気の27.1倍、この夏、古馬相手に勝ち負けし軌道に乗ってきたスネークアイズが5番人気の27.7倍で続いた。
出走馬
レース
スタート
1周目向正面
1周目スタンド前①
1周目スタンド前②
2周目2コーナー
2周目向正面
2周目3〜4コーナー
4コーナー〜最後の直線
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
ゴールイン
前日の雨の影響でこの日は稍重スタートとなったが、3Rから馬場は良に回復、
実況席の気温も30℃を下回る28℃台と暑さは幾分和らぎ、過ごしやすい気候となった。
この日は重賞以外にヤングジョッキーズシリーズトライアルラウンド園田やJRA交流競走があり、すでに大きな盛り上がりを見せていた。
曇天の空の下、レースがスタート。
発馬後、若干ベラジオウマムスコが置かれたがほぼ一団の序盤戦。2強はスタート決めて前へ。
兵庫ダービーとは逆で今回はスマイルミーシャが外枠でベラジオソノダラブが内枠。
坂本師が戦前から「前回は自分の形に持ち込めなかった分の負け。今回は積極的な競馬で」と話していた通り、ベラジオソノダラブが先頭に立とうと前に出るが、それより速く、ハナを取り切ったのはスネークアイズだった。
これまでの主戦、田中学が立ちはだかる。
前にスネークアイズ、外にスマイルミーシャに包まれる形になり、大きく首を上げて折り合いを欠くベラジオソノダラブ。竹村騎手が懸命になだめるも、この間にスマイルミーシャに一歩前に出られ、3番手のインを進む格好となった。
中団に、スタート後手から巻き返すベラジオウマムスコ、馬群の中にマルグリッド、切れ目なくブエラフェルテ、グディカンワルが追走、カレーパン、アイアンストーンが並んで最後方を形成し、1周目のスタンド前へ。
これまでは番手から早めに抜け出しを図る競馬が多かったスネークアイズが序盤からの積極策、引きつけながらの逃げで隊列は7、8馬身の一団に。
それをピタリとマークし、内のベラジオソノダラブを見ながら2番手を追走するスマイルミーシャ。ベラジオソノダラブも落ち着きを取り戻しながら向正面へ。
流れは落ち着いていたが残り600mあたりからスネークアイズ、スマイルミーシャら鞍上の手が動き出してペースアップ。
残り300m付近で楽に先頭に並びかけるスマイルミーシャ。この間、吉村騎手は後方との距離を確認し、余裕十分。スネークアイズも何とか踏ん張り2番手、3番手に1馬身半差でベラジオソノダラブが追いすがる。その外からマルグリッド、内からブエラフェルテも追っていき、最後の直線へ。
4コーナーから一気に先頭に立ち、後続との差を広げにかかるスマイルミーシャ。苦しくなったスネークアイズをベラジオソノダラブが捕まえて2番手に浮上し、あと100m。外からぐんぐん追い上げるマルグリッド、さらにその外からブエラフェルテもじわじわ追い上げ、2、3番手は混戦模様に。
それらを尻目に楽に突き抜けたスマイルミーシャが後続に5馬身差をつける完勝のゴールイン。
2着は自慢の末脚を見せたマルグリッド。ベラジオソノダラブはなんとかブエラフェルテをクビ差凌いで3着を死守した。
そして果敢に逃げを見せたスネークアイズがブエラフェルテから2馬身半遅れての5着となった。
ゴール後、首筋をポンと叩いて愛馬を称え、左手の人差し指をファンに掲げた吉村騎手。これぞ女王の風格、「もはや同世代に敵はいない」と1強を示す圧勝劇だった。
◆スマイルミーシャはこれで4連勝で4度目の重賞制覇。ここまでの敗戦は惜敗の2着だった菊水賞の2着のみで、通算9戦8勝。ほぼパーフェクトの成績で世代の頂点に君臨し続ける。
獲得タイトル
2022 園田ジュニアカップ
2023 のじきく賞、兵庫ダービー、園田オータムトロフィー
◆吉村智洋騎手は重賞通算45勝目。今年の兵庫ダービーを同じくスマイルミーシャで制したのに続き、今年の4勝目。園田オータムトロフィーは去年のエコロクラージュの優勝に続いて連覇達成となった。
ちなみにこの勝利が地方通算3200勝目のメモリアルV。
今年も年間300勝超のペース、全国リーディングでも独走を続ける。
◆飯田良弘厩舎は重賞通算6勝目。吉村騎手同様、今年の兵庫ダービーをスマイルミーシャで優勝して以来、今年の3勝目。園田オータムトロフィーは初制覇となった。
◆吉村智洋騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
他馬を寄せ付けぬ5馬身差の完勝について、吉村騎手は「まぁ素直に嬉しいです」と一言。道中2番手のポジションも想定通りで理想の展開でレースは進んだ。
「すごいリラックスして走ってくれてましたし、あとはどこでゴーサインを出すかだけだったので」。
その言葉通り、勝負所でも余裕を持って先頭のスネークアイズに並びかけ、
追い出してからは後続を離す一方だった。
レースを追うごとに危なげのない走り、勝ち方をしているように見えるが、鞍上の感触としては決して本調子ではなかったようだ。
「ずっと厩舎で調整しているという感じだったので、やっぱりちょっと暑さにはこたえているのかなと。いつものパフォーマンスではないと僕は思っていますけど。ゴーサイン出したらもっと”ズキューン”て行くんでこの馬。その感じがなかったので。それでも勝ってくれるので偉い馬だなと思います」。
確かに追い出してから豪快に伸びてくる勢いのようなものは今回感じなかった。しかしそれもレース運びがさらに上手くなったからなのだろうと、筆者は実況しながら勝手な解釈をしていたが、吉村騎手によると夏負けの影響によるものだったようだ。
それであのパフォーマンスを見せられるとなると、今後がさらに楽しみになる。
そして、自身通算3200勝のメモリアル勝利となったことについては「全然、そっちはどうでもいいんですけど」と笑みをこぼしながらいつもの吉村節が炸裂。
翌週には中央、地方の名手が集う「ゴールデンジョッキーカップ」が行われる。
ゴールデンジョッキーの称号は通算2000勝以上が条件であることを考えれば、
現時点での3200勝はやはりとてつもない数字だ。
「今日はヤングジョッキーズの騎手たちが白熱したレースを見せていたので、僕も負けじと来週は優勝目指して頑張りますので応援のほどよろしくお願いします」と最後は大一番への意気込みを語ってくれた。
レース前のインタビューで「夏の暑さの影響で活気に乏しいところはある」と話していた飯田良弘調教師。
「少し不安はありましたが、競馬ではいつもこうして勝ってくれますから。なかなかここまでレースの上手な馬はいないと思いますね」と安堵の表情を浮かべ、愛馬を労った。
「精神面も成長していると思いますし、あとは馬体ですね。元々500キロあった馬ですから。牝馬にしては元々馬格はあるんですが、あとは筋肉というより骨格がもう少ししっかりしてくればより良くなると思います」と今後の課題を口にした。
総評
今度は陣営も納得のスマイルミーシャらしい走りが見たいものだ。
ベラジオソノダラブに関しては急仕上げの影響も大きかったか。それに加えてレースも折り合いを欠く場面があり、自分の競馬ができなかった。対戦成績は1勝3敗と水をあけられたが、力を出し切れさえすればもっと肉薄してもおかしくないだろう。
マルグリッドも多少距離不足の感がありながらも良い脚で2着を確保した。得意舞台ならもっとハイパフォーマンスが見られそうだ。
残念ながら回避となったフラフも含めて、他馬の逆襲の時を待ちたい。
しかしながら、改めて全国を見渡しても今年のダービー馬はすごい。
大井のミックファイア、門別のベルピット、そして高知のユメノホノオの三冠馬に加え、
先日兵庫馬を蹴散らした金沢のショウガタップリに、愛知のセブンカラーズ、岩手のミニアチュール
と、まさに大豊作の年となった。そんな中にあって、兵庫にはこのスマイルミーシャがいる。それらに負けない輝きを放つこの兵庫の誇りが、今後は全国に名を轟かす存在になってほしいと切に願う。
文:木村寿伸
写真:齋藤寿一