2023 兵庫若駒賞 レポート
2023年08月31日(木)
全日本的なダート競走の体系整備が昨秋に発表。来年5月の兵庫チャンピオンシップ(来年から1400mに変更)に向けて、各主催者、各ブロックにおける短距離競走体系整備が行われた。兵庫は10月12日(木)に2歳重賞の第1回ネクストスター兵庫が新設され、同時期に行われていた「兵庫若駒賞」は残暑の厳しい8月末に移動となった。
同レースはオオエライジン、メイレディ、エーシンクリアー、トーコーヴィーナス、マイタイザンなど、兵庫生え抜きのスターホースが勝利した出世競走。
翌年の兵庫三冠クラシックでも多くの活躍馬を輩出しているだけに注目の一戦となる。今回は兵庫ジュベナイルカップ組の3頭と重賞初挑戦6頭のマッチメイクとなった。同レースはここ3年は無敗馬の勝利が続いている。マミエミモモタローとフェリシスの2頭が無敗制覇を目指す。
兵庫若駒賞の前後に新設重賞が加わった影響で今年はフルゲート割れの9頭立てとなった。酷暑の時期に若馬の臨戦態勢を整えることは容易ではない。兵庫ジュベナイルカップ組は中2週での出走を余儀なくされる。同レースで好走したミナックシアター、ハバナビーチ(引退)が負傷で戦線離脱。激走の代償を払う結果となってしまった。ダート競走の改革元年で手探り状態ではある。今後に向けて改善や修正を繰り返しながら魅力のある競走を作って頂けたらと思う。
単勝1番人気の1.5倍に支持されたのは、兵庫ジュベナイルカップを制したマミエミモモタロー。4角で前が塞がり、砂の深い最内を突く形になったが鋭く伸びて2戦2勝でタイトルを獲得。調教の段階から川原騎手が付きっ切りで競馬を教え、砂を被る想定の練習もしてきた。実戦さながらの調教が実を結んでの勝利だった。今回はタイトルホースとして追われる立場になるが自在性を武器に重賞連勝を目指す。
2番人気の3.1倍がスタビライザー。新馬戦、アッパートライを連勝し、兵庫ジュベナイルカップは1番人気の支持を集めた。レースは速い流れの中で好位3番手を追走。3~4角で外に張る面をみせるも、勝ち馬のマミエミモモタローとは0.4秒差の4着と粘った。道中でタメを作りスムーズに立ち回れるかがポイントになる。
前走の新馬戦を勝利したフェリシスが3番人気の8.0倍。余裕残しの仕上げで2番手から早め抜け出しての快勝。直線で遊ぶ面を見せながらも好時計をマークした。兵庫ジュベナイルカップ組や他路線組との力量比較が難しいが新馬戦の内容を評価された。
4番人気以降は大きく離れて20.1倍でべラジオケンシロウ、グレールールと続いた。
2連勝式、3連勝式も4番のマミエミモモタローが人気の中心。スタビライザー、フェリシスを相手にした馬券が票数を伸ばした。
出走馬
レース
スタート
正面スタンド前
2コーナー
向正面①
向正面②
3〜4コーナー
4コーナー手前
4コーナー~直線
最後の直線①
最後の直線②
ゴールイン
月跨ぎ3日間開催の中日は曇天空。ただ高湿度に加え、気温は35℃前後まで上がり厳しい暑さとなった。前週のようなゲリラ豪雨はなく馬場状態は「良馬場」。前日から前残り傾向が続き、条件戦でも速い時計が出るなど最高の馬場コンディションでレースを迎える。
発走予定時刻通り16時15分にファンファーレが鳴り響いた。キャリアの浅い2歳重賞は枠入りに時間を要する事が多いが、この日はスムーズにゲート入りが進み全馬が枠に収まった。べラジオケンシロウが枠内で立ち上がったり、マミエミモモタローが頭を下げるなどの動作はあったが、すぐにスタートが切られた。
発馬はグレートメモリーズが若干を後手を踏んだが他の各馬は五分。まずは内からグレールール、マミエミモモタロー、スタビライザー、フェリシスの4頭が前に出てくる。何が何でも逃げたい馬が不在で大方の予想通りこの4頭が出方を見る形となった。
人気を集めたマミエミモモタローが押し出されるように先頭へ。フェリシスが2番手外で逃げ馬をマーク。グレールールは一歩引いて3番手の内。前走よりも1列前につける事が出来た。スタビライザーは4番手で折り合う。
中団にはべラジオケンシロウとゼンダンノハゲミ。新馬戦でハナを奪ったゼンダンノハゲミは控える競馬となり6番手。後方にはアフェットレイ、グレートメモリーズ。エヌケージャパンが最後方で追走となった。先頭から最後方までは10馬身ぐらいの差で1角へ突入する。
序盤ですんなり隊列が決まり、兵庫ジュベナイルカップよりも落ち着いた流れとなった。1~2角も各馬の並びに変化はなく向正面に入る。川原騎手のマミエミモモタローは自分のリズムで淡々と逃げる。1/2馬身差でフェリシスが2番手で人気馬にジカ付け。グレールールの中田騎手はマミエミモモタローの背中を見ながら仕掛けのタイミングを伺う。スタビライザーは残り600m手前から竹村騎手の手が動く。砂を被った影響で先行集団から徐々に離され始めた。
中団にいたべラジオケンシロウの鴨宮騎手、ゼンダンノハゲミの吉村騎手も早めに動いて追い上げ態勢に入る。グレートメモリーズ、アフェットレイ、エヌケージャパンは後方のまま3角手前の坂を迎えた。
3角を通過してもマミエミモモタローは楽な手応えで川原騎手の手綱は動かない。対するフェリシス、グレールールはジョッキーのアクションが次第に大きくなる。勝負どころで一旦置かれたスタビライザーも立て直して差を詰めてくるが、マミエミモモタローとは5馬身ぐらいの差がある。
4角手前で川原騎手がゴーサインを出すとマミエミモモタローはスピードアップ。フェリシスやグレールールを突き放してリードを広げる。
一方、2番手につけていたフェリシスは離されながらも次位を守って粘る。グレールールとスタビライザーは4角で外へ持ち出して直線は馬場の五分どころから追い上げる。その背後からはゼンダンノハゲミ、後方待機のグレートメモリーズも脚を伸ばしてきた。
残り200mを先頭で通過したマミエミモモタローは独走状態。危なげない競馬で後続に7馬身差をつける圧勝で重賞連勝を飾った。鞍上の川原騎手は大型ビジョンをチラッと見ながら後方との差を確認する余裕をみせていた。
焦点の2着争いはグレールールが直線で力尽きて後退。2番手で粘るフェリシスを外からスタビライザーが捕らえて2着を確保。フェリシスは3着でゴールを通過した。終わってみれば1番人気、2番人気、3番人気の順で決まり3連単の払戻金額は810円。人気サイドの決着だった。
4着以降はグレートメモリーズ、ゼンダンノハゲミ、グレールールの順で入線した。
”追われる立場”として挑んだ兵庫若駒賞はマミエミモモタローの独壇場だった。中2週の不安も一掃する圧巻の内容でライバルを返り討ちにした。無敗で夏の2歳王者に輝いた。勝ち時計は1分31秒8。一昨年のガリバーストーム(1分32秒2)、昨年のべラジオソノダラブ(1分32秒4)を上回る好時計で駆け抜けた。
◆マミエミモモタローは3戦3勝で兵庫ジュベナイルカップに続き重賞連勝。兵庫若駒賞は4年連続で無敗馬の勝利となった。(2020年ツムタイザン、2021年ガリバーストーム、2022年べラジオソノダラブ、2023年マミエミモモタロー)
獲得タイトル
2023 兵庫ジュベナイルカップ
2023 兵庫若駒賞
◆川原騎手は兵庫ジュベナイルカップに続き今年重賞2勝目。通算重賞118勝目。65歳5ヶ月17日での重賞制覇となり、3週前に更新した国内における最年長重賞勝利記録(64歳4ヶ月27日)を自身で塗り替えた。兵庫若駒賞は初制覇。
◆諏訪貴正厩舎は兵庫ジュベナイルカップに続き重賞3勝目。すべて川原騎手とのタッグで勝利。兵庫若駒賞は初制覇。
◆川原正一騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
「1番人気で勝つ事は簡単な事ではないので結果を残せてホッとしています」
勝利騎手インタビューで川原騎手は安堵の表情。1976年の騎手デビューから長年第一線で活躍を続けているが、人気馬を勝利に導く難しさを知っている。1番人気の重圧を跳ね除けて重賞勝利数を「118」。兵庫ジュベナイルカップで更新した最年長重賞勝利記録を65歳5ヶ月17日に伸ばした。
「記録よりも1つ1つで結果を残すことが大切だと思っています。数字は後からついてくる物なのでね。それよりも馬を褒めてあげて(笑)」。最年長重賞勝利記録を自身で更新したが謙虚な姿勢は崩さなかった。
前走は控える競馬で川原騎手の好判断で勝利に導いたが、今回はハナを奪う競馬で逃げ切った。「元々スタートは良い馬なので、逃げるか控えるかはゲートが出てから決めようと思っていました。内枠だったので外から被せられてごちゃつくのも嫌だったのでハナに行きました」と川原騎手の判断で逃げの手に出た。
「道中も楽なペースで馬はリラックスしていた。いつでも反応出来る状態でした。前回よりも強い内容だったね」とマミエミモモタローを褒め称えた。
夏の2歳重賞を連覇したが川原騎手は先を見据えている。
「まだ未対戦の馬やこれから出てくる馬もいます。追われる立場なのでこれからも気を引き締めて頑張りたいです」。勝利に浮かれることなくその先の戦いに目が向いている。
「操縦性もある馬なので距離延長も問題なさそう。良い勝ちっぷりでしたし、これからの伸び代を考えると将来も楽しみです」。逃げても控えても競馬が出来る「新世代の主人公」マミエミモモタロー。大ベテラン川原騎手とのタッグで快進撃が続きそうな勢いだ。それに待ったをかける新星の登場も期待したい。
今後は秋の新馬戦でデビューを迎える馬。さらにハイレベルのホッカイドウ競馬から能力を秘めた2歳馬の転入が増加する。兵庫生え抜きvs移籍組の抗争が激化する秋の2歳戦線。夏の2番勝負を制したマミエミモモタローは王者としてライバルの挑戦を受けて立つ。
前回の兵庫ジュベナイルカップに続き、名付け親のハイヒール・モモコさんが口取り、表彰式に出席されていた。デビュー戦から現地でマミエミモモタローのレースを観戦している。
次走は第1回ネクストスター園田(10月12日)の予定だが「う~ん、行けるかな?」と頭を抱えていた。仕事次第にはなるが、次回も園田競馬場で応援する姿が見られるかもしれない。
表彰式後、諏訪調教師にお話を伺った。「ゲートの中でゴソゴソしてヒヤッとしたが、スタートを決めた時点でホッとしました。今日は逃げ有利な傾向でしたので、1角手前でハナに立っていたので何とかなりそうだなと思いました」と笑顔で振り返った。
記録的な猛暑になった8月でもマミエミモモタローは元気一杯。兵庫ジュベナイルカップ後もすぐに馬場入りができたそうだ。
「中2週でしたが、暑い時期でも順調に乗り込めて力強さも出てきました。馬体重が前回からプラス6kgと増えていましたし、厳しい環境でも成長していますね」と愛馬を称えた。
総評
諏訪調教師に伺うと次走は第1回ネクストスター園田(10月12日)を目標としている。
その後は一度、1700mのアッパートライ競走を挟んで、園田ジュニアカップ(12月31日)に向かう予定だ。
「今後に向けて1700mを経験させたいです。園田の1700mはいかに折り合いをつけて、スピードアップ
「園田ジュニアカップの後は春に向けて休養に入る予定です。まず無事に行くことを第一に考えてやっていきます」と来春の兵庫クラシックに向けての育成プランを立てている。
文:鈴木セイヤ
写真:齋藤寿一