2023 摂津盃 レポート
2023年08月11日(祝金)
お盆シリーズ恒例のハンデ重賞「第55回摂津盃」が12頭立てで行われた。
祝日でお盆休みの初日と重なったこの日は、2010年の年始開催以来となる場内イベントも3年半ぶりに復活。
親子連れも多く、5,000人近くのファンが詰めかけて大いに場内は賑わっていた。
ハンデ戦だが、斤量は56kgから52kgという4kgの範囲に収まり、斤量での有利不利はないと見られたが、人気はハンデらしく割れていた。
1番人気は単勝3.2倍でツムタイザン。2歳時に兵庫若駒賞と園田ジュニアカップを制し最優秀2歳馬に輝いたが、その後に屈腱炎を患い1年3ヶ月もの長期休養を余儀なくされた。4歳春に復帰してから徐々にクラスを上げ、久々の重賞出走となった今年の兵庫大賞典で4着。6月には中団に控える競馬での勝利も挙げ、脚質に幅が出た中での出走となった。ハンデは55.5kg。
2番人気にはサンライズラポール、単勝5.0倍。
リーディングトップを快走中の柏原厩舎へ夏前に移籍。その初戦となった前走は、序盤やや折り合いを欠くシーンを見せながら3着。馬場慣れも見込める今回、元JRAオープン馬という実績も手伝ってトップハンデタイの56kgながら逆転候補の一頭と目された。
3番人気は単勝5.2倍のタガノウィリアム。ハンデはトップタイの56kg。
重賞経験豊富な馬で、得意の逃げに持ち込んだ昨年の姫山菊花賞では2着とジンギに先着も果たした。昨夏の摂津盃は痛恨の出遅れで10着。重賞初制覇の鍵は展開面、今年も逃げに持ち込めるかが最大のポイントだった。
さらに人気は、前走六甲盃5着のナムラタタ、菊水賞馬シェナキング、今年の新春賞優勝馬アキュートガール、元JRAオープン馬で移籍2戦目のタイガーインディ、兵庫大賞典2着馬メイプルブラザーと続き、ここまでの8頭が単勝20倍以内にひしめく混戦ムード。
出走馬
レース
スタート
1周目向正面
1周目3~4コーナー
1周目スタンド前①
1周目スタンド前②
2周目2コーナー
2周目3コーナー
2周目4コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
最後の直線④
最後の直線⑤
ゴールイン
この日も昼間は36℃を超える猛暑日。しばらく強い雨は降っておらず、馬場状態はパサパサの良馬場。夜になって少し気温は下がり、幾分過ごしやすくはなったが競馬場には5,000人近いファンが集い、熱気は充満。ファンファーレが鳴るとスタンドから大きな拍手と歓声が起こり、スタートが切られた。
スタートはサンライズラポールが半馬身出負けをした以外はほぼ一線。陣営が戦前から「何が何でも逃げたい」と話していた内枠2頭、タガノウィリアムとエイシンアンヴァルも手綱を押して出ていこうとしたが、ダッシュが速かったのはタイガーインディ。あっという間にハナを奪って3コーナーにいち早く飛び込んだ。揉まれたくないアキュートガールもスッと2番手を取り、すぐ外にエイシンダンシャクという隊列で1周目の4コーナーに入る。
ペースが落ち着きかけたところで、4番手にいたエイシンアンヴァルが動く。川原騎手は馬を外に誘導すると、一気に内の3頭を抜いてスタンド前に向くところで先頭を奪う。スタートから400m、遅ればせながらエイシンアンヴァルが自分の形に持ち込み、主導権を握った。
逃げたかったもう一頭タガノウィリアムは5番手インで我慢のレース。その直後の6番手外がツムタイザン。ナムラタタとサンライズラポールは差しに構える展開で、その後ろにメイプルブラザーとヴァイスリヒトが並走。さらにモズファヴォリートがいて、最後方にシェナキング。
エイシンアンヴァルがホームストレートで先頭に立ったこともあり、馬群は15馬身以上の縦長。スローに落ちることなく流れる中、2周目向正面入口からもう各馬はスパート開始した。
3コーナー入口で2番手のタイガーインディが逃げるエイシンアンヴァルに並びかけると、中団にいたツムタイザンが一気に脚を伸ばして3番手に浮上。前との差を詰めにかかった。
好位にいたアキュートガール、エイシンダンシャク、タガノウィリアムの3頭が伸びあぐねる中で、外からツムタイザンについていく形でナムラタタが、さらにその後ろからサンライズラポールも追い上げを見せる。
4コーナーでタイガーインディが先頭に立ったが、すぐ背後1馬身半差でツムタイザンが迫っており、さらにナムラタタも脚を伸ばして直線に向いた。
粘り込みを図るタイガーインディの外から一歩一歩差を詰め、残り30m地点で差し切ったツムタイザンが見事に重賞3勝目となるゴールイン。杉浦健太騎手はゴール後大きく左手を突き上げた。
2着は半馬身差でタイガーインディ。ナムラタタを直線で差したサンライズラポールが3着。2着馬に最後1馬身3/4差まで迫る直線の末脚は光っていた。さらに、ナムラタタが4着、メイプルブラザーが5着。
◆ツムタイザンはこれで18戦10勝、重賞3勝目。兵庫生え抜き馬による摂津盃制覇は2020年ジンギ以来3年ぶり。堂々1番人気の期待に応えての優勝だった。
獲得タイトル
2020 兵庫若駒賞、園田ジュニアカップ
2023 摂津盃
◆杉浦健太騎手は重賞通算15勝目。2020年園田ジュニアカップをツムタイザンと共に制して以来、2年8ヶ月ぶりの勝利。摂津盃はマイタイザンで制した2017年以来6年ぶり2度目の優勝。
◆木村健厩舎は重賞通算2勝目。2020年兵庫クイーンカップをマコトパパヴェロで勝利して以来、2年10ヶ月ぶりの勝利。摂津盃は騎手時代に3連覇を含む5度の優勝があったが、調教師としては初制覇。
◆杉浦健太騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
大外枠からのスタートというのは決して有利な条件ではなかった。それでも「12番を引いた時点で開き直りました。内に行く馬が揃っていたので、それを見ながら行くイメージで乗っていました」との言葉の通り、杉浦騎手はスタート後に少しだけ馬を促してうまく中団につけた。
兵庫若駒賞は逃げ切り、園田ジュニアカップは好位から抜け出しての勝利。兵庫大賞典の時は逃げて4着と、前で運ぶイメージの馬だったが、2走前に中団から差して勝ったことが杉浦騎手の自信にもなっていた。
「(中団からのレースは)イメージ通り。前にタガノウィリアムなど有力馬がいる展開になるだろうと思っていたので、一つでも前の位置は取りたいなと。流れてくれて、この馬にとってはすごく走りやすいペースになりました。いつも通り反応良く動いてくれて、最後まで頑張ってくれました。競馬の幅が広がって、それに見合った結果だなと思います」
屈腱炎を克服し、1年3ヶ月もの長期休養から立ち直り、這い上がってきた。「本当に馬に感謝です。本当にすごい馬だと思います。以前はテンションが上がったり、内にもたれながら走ったりという面があったんですが、最近はそれもなくしっかり走ってくれているのですごく成長を感じます」とデビューからずっと手綱を取り続ける杉浦騎手はパートナーを讃えた。
杉浦騎手の重賞勝利も、ツムタイザンと共に手にした2010年の園田ジュニアカップ以来2年8ヶ月ぶり。
「ファンファーレの時から歓声も聞こえて、この勝利も皆さんの応援のおかげかなと思います。たくさんのお客さんの前で勝つことができて本当に嬉しいです」と久々のお立ち台から見る景色に喜びを噛み締めた。
屈腱炎から復帰するタイミングで、大山寿文師からバトンを受けて2歳王者を預かることになったのが木村健調教師だった。
戦列に復帰してからも、脚に気を使いながらの調教で目一杯に負荷をかけることができなかった。なかなかこの馬の潜在能力を引き出すことができず、B1クラス4着が続いた。
故障明けとはいえ、2歳王者を勝たせられないもどかしさもあっただろうが、“とにかく無事に走らせる”ことをモットーにしている木村師は焦らなかった。馬の状態を見極めながら少しずつ少しずつ負荷を強めていった。故障を再発することなく、B1,A2と勝ち上がりA1も勝利。ついに今年の兵庫大賞典で重賞の舞台に戻ってきた。
兵庫大賞典(4着)の時には調教でしっかり負荷をかけて鍛えながら馬を作った分、テンションが上がってしまったという。そこで、ここ2走は調教を工夫しソフトな仕上げで臨んだところゲートも大人しく、1,2着と結果が出ていた。
「テンションが上がるので今回の摂津盃もソフトな仕上げにしたところ、今日もパドックから返し馬は大人しかった」と木村師の戦略がしっかり実を結んだ。
「ゲートも普通に出てくれたし、『大外枠が当たったのである程度ポジションを取りに行かないと中途半端になる』と健太も言っていたからね。うまく流れに乗ってくれた。川原さんが行ってくれたのも良かった」とエイシンアンヴァルが途中から先頭に立ったことでスローペースにならず、中団から進めたツムタイザンに展開も味方した。
「3コーナーで健太が肩ムチを入れた時に反応してくれたんでね。『かわせぇ~!!』って叫びましたよ」と笑顔を見せた。
2歳王者を預かり、常に脚の不安を抱えながら再び檜舞台で戦える状況に押し上げる。そして三度目の重賞制覇。決して簡単な仕事ではなかったが、木村厩舎一丸となって見事にやり遂げた。
「やっぱり調教できるのがね。ホッとしました」 この短い言葉に、この2年8ヶ月が凝縮されていた。
総評
競走馬にとって“不治の病”とも言われる屈腱炎を患い、1年以上の長期休養を余儀なくされた。戻って来てからも常に再発の不安がつきまとった。
ようやく調教で強い負荷がかけられるようになり、5歳夏にその素質が再び花開いた。
この半年間、月イチペースでずっと走ってきたその疲れを取るためにリフレッシュ放牧に出される予定だ。
復帰時期は未定とのことで、目標レースから逆算するのではなく、状態面を見ながらじっくりと進められるようだ。
ツムタイザン。これまで長く続いた“2歳王者”という看板が、5歳夏、ついに書き換わった。ここからは兵庫を牽引する“古馬中長距離戦線の主役”の一頭だ。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一