2023 兵庫ジュベナイルカップ レポート

2023年08月10日(木)

兵庫県競馬において、2018年に創設された園田オータムトロフィー以来、
5年ぶりの新設重賞となった「兵庫ジュベナイルカップ」。
去年は特別競走として行われたが、今年から格上げされ、2歳重賞の皮切りとなるレースに生まれ変わった。
全日本的なダート競走の整備が進められる中、兵庫も2歳重賞の整備が行われ、このジュベナイルカップの創設を始め、これまで10月中旬に行われていた「兵庫若駒賞」を8月末に移動、さらに秋にはネクストスター競走を新設するなど2歳重賞戦線は改革の年に入っている。
そんな過渡期において、世代最初の重賞タイトルを手にするのはどの馬か、将来を嘱望される若駒12頭が顔をそろえた。

まだデビューして間もない馬たちによる未知な部分が多いレース。
大方の予想通り、単勝人気は4頭が10倍以下と混戦ムードの様相を呈した。

そんな中にあって単勝1番人気の2.5倍に支持されたのは、ここまで1400m戦で2戦2勝のスタビライザーだ。6月の新馬戦は2着に5馬身差をつける逃げ切り完勝。続くアッパートライでは道中好位に控え、直線で先頭に立つと外から追い込むミナックシアターを振り切った。
逃げてよし、控えてよしの安定感、そしてメンバー中唯一の2勝馬ということで、戦績的には一歩リードしていた。

2番人気の3.2倍がクラウドノイズ。こちらはまだ7月26日に行われた820mの新馬戦を勝ったばかり。ただそのデビュー戦は、余力たっぷりの逃げ切り勝ちで2着に7馬身差をつける圧勝劇だった。しかも勝ちタイムの50秒2は今年の2歳の820m戦最速の時計とあって、非凡な才能を見せつける初陣となった。今回は中1週での臨戦が鍵となる。

キャリア3戦、いまだ未勝利のミナックシアターが4.3倍の3番人気で続いた。
ここまで、初出走が4着、2戦目と3戦目のアッパートライを2着と善戦。
コパノカサノバ、ダイジョバナイ、スタビライザーと強敵相手に確かな末脚で差のない競馬をしてきたことが評価された。
田野騎手、土屋調教師、下河辺牧場という、去年9月の園田プリンセスカップで悲願の重賞勝利を飾ったチームで再現を狙う。

そして1400mの新馬戦を勝ち上がったマミエミモモタローが4番人気の7.3倍の支持を受けた。デビュー戦は好スタートからハナへ。2番手の馬に終始並ばれる格好だったが、それもどこ吹く風とばかりに、4角からはこれら後続を離しにかかり、最後は2馬身半差の完勝。まだまだ奥を感じさせる走りだった。
間宮さとこオーナーを始め、関係者らの名を背負った印象的な馬名は、お笑いコンビ、ハイヒールのモモコさんが付けたということで注目を集めた。
北海道のサマーセールで実際に馬を見て名付けたとのことで、新馬戦に続き、このレースも応援に訪れ、愛馬に熱視線を送った。

この他にも、5番人気の10.2倍には甘んじたが820mの新馬戦を良いスピードで逃げ切ったハバナビーチも有力馬の一頭と目された。

出走馬

1番  レーヴァローゼ 杉浦健太騎手
2番 クラウドノイズ 下原理騎手
3番 タルナカンワル 廣瀬航騎手
4番 アフェットレイ 大柿一真騎手
5番 マミエミモモタロー 川原正一騎手
6番 イマナンジャナイ 小谷周平騎手
7番 タカヤンテイオー 永井孝典騎手
8番 サヨノコントラスト 田中学騎手
9番 ハバナビーチ 吉村智洋騎手
10番 グレールール 中田貴士騎手
11番 ミナックシアター 田野豊三騎手
12番 スタビライザー 竹村達也騎手

レース

スタート

正面スタンド前①

正面スタンド前②

1〜2コーナー

向正面

3〜4コーナー

4コーナー手前

4コーナー①

4コーナー②

最後の直線①

最後の直線

最後の直線

ゴールイン

祝日ではないものの、お盆シリーズ3日間開催の中日ということで、通常の平日よりも賑わいを見せた園田競馬場。
うだるような暑さの中ではあったが、4年ぶりにお盆の場内イベントも復活したこともあり、家族連れの姿も多く見られた。

一週前の段階では、通り雨や集中豪雨など夏の不安定な天気が心配されたが、
それも杞憂に終わり、馬場はカラカラに乾いた良のコンディションで競馬が行われた。夏空の下、ファンファーレが鳴り響き、大きな拍手が湧きあがった。

この日もゲート入りを嫌がり、中で立ち上がる仕草を見せたハバナビーチ。その後なんとか落ち着き、ゲートイン完了。重賞創設元年の兵庫ジュベナイルカップのスタートが切られた。
好発を決めたのはマミエミモモタローやレーヴァローゼ、タルナカンワル。
大外のスタビライザーもスタートを五分に決めて、前へと上がっていく。
その間、下原騎手がやや促してクラウドノイズが結局先手を主張する形に。
吉村騎手のハバナビーチが外から2番手につけると、川原騎手のマミエミモモタローは今回控える競馬で好位3、4番手のインを取る。
出鞭も入れて前に付けて行った竹村騎手のスタビライザーが外の3番手を確保して1コーナーのカーブへ。その後方にイマナンジャナイ、グレールール、そして人気上位のミナックシアターの田野騎手は隊列の中団で脚を溜める形に。差がなく、外にタカヤンテイオー、内にレーヴァローゼ、後方にかけてタルナカンワルやアフェットレイ、最後方にサヨノコントラストがつけて向正面に入った。

やや縦長の隊列にはなったが、前走820mを逃げ切った馬が多数いたことを考えると、大方の予想ほどは流れず、レースは進む。
残り600mを過ぎ、クラウドノイズ、ハバナビーチが変わらず先頭、2番手。これらの1馬身半差で追走していたスタビライザーが促していって、全体のペースが上がる。4番手のマミエミモモタローも鞭を一発入れてこれに付いていき、
その後方からグレールール、その外を通って一気にミナックシアターの田野騎手が上昇。この間、マミエミモモタローとミナックシアターに挟まれる形でグレールールがバランスを崩し、やや後退して4コーナーへ。
(※マミエミモモタローの川原騎手が3角で外側に斜行、グレールールの進路が狭くなったことでのちに戒告処分)

番手から先頭に変わったハバナビーチが内、スタビライザーが真ん中、外にミナックシアターとなり、前は3頭が広がって直線に向く。
それらが壁になって、インの4番手でじっとしていたマミエミモモタローは直線の入り口、ポッカリ開いた最内に進路を取って一気に先頭に躍り出る。
2馬身後ろ、食い下がるハバナビーチ、外からしぶとく末脚を伸ばすミナックシアター、そして少し遅れをとったスタビライザー。それらの2、3着争いを尻目に、堂々1着でゴールしたマミエミモモタロー。

川原正一騎手は、この勝利で、日本競馬界における最年長重賞勝利記録を更新した。
64歳4ヶ月27日での勝利は、大井の的場文男騎手が2018年に記録した62歳12日を、大幅に更新する大偉業となった。勝負所で慌てず、冷静に内を選択した“これぞ大ベテラン!”といった手綱捌きを見せた。


◆マミエミモモタローはデビューから無傷の2連勝で本レース初代王者に輝いた。


獲得タイトル

2023 兵庫ジュベナイルカップ

◆川原騎手は2020年ののじぎく賞をテーオーブルベリー(大井)で勝利して以来、約3年3ヶ月ぶりの重賞制覇。通算重賞117勝目。兵庫所属馬での重賞勝利は2019年にヒダルマで制した摂津盃以来4年ぶりとなった。
前述した通り、この勝利で、国内における最年長重賞勝利記録を更新。
64歳4ヶ月27日での勝利は、これまでの的場文男騎手(大井)が持つ62歳12日(2018年9月19日に東京記念をシュテルングランツで制覇)を、2年4ヶ月以上更新する大記録となった。

◆諏訪貴正厩舎は2017年の兵庫ダービーをブレイヴコールで制して以来、6年ぶり2度目の重賞制覇。初重賞勝利も川原正一騎手が導いてのものだった。

◆川原正一騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

歓声と拍手が送られる中、勝利騎手インタビューに答えた川原騎手。
記録的な勝利になったが、「そうですね。ま、嬉しいですね」と自身は控えめな一言にとどめた。今回は道中4番手のインで控える競馬となったことについては、「今日は行く馬も何頭かいるだろうと思ったんで。一番良いポジションが取れましたね」と想定通りだった模様。
「道中はずっと手応えも良く、リラックスして走れていた」というマミエミモモタローの操縦性の高さを評価した。

そして勝敗を分けたであろう、4コーナーで最内を選択した進路取りに関しては「残り400mぐらいから外へ出そうと思ったんですけどね。外からも馬が何頭か来ていたんで。ちょっとそれは危ないなと思って、また内でじっとしていましたね」。直線の入り口、前が開くとスムーズに加速、すっと抜け出すセンスの良さを見せた。
そして、自身が最年長重賞勝利記録を更新したことに再び話が及ぶと「そうですね。騎手をやっていればいずれはそういうチャンスが来るかなとは思っていたんですけどね。まぁ別に重賞勝ったのは嬉しいんですけど、僕にしてみれば、1勝の積み重ねなんでね。別に重賞だろうが平場だろうが、勝てばなんでも嬉しいです」とあくまでも淡々と答えた。

「この馬はまだ伸び代があるので。これから大きいところが狙える馬じゃないかと思って、調教もやっていますね」とマミエミモモタローの将来性に触れると、声のトーンが一段上がった。自分のことよりもこの馬の今後が楽しみといった感じだろうか。
最後は場内のファンへ向け、暑い中での観戦に感謝を伝えて締めくくった川原騎手。大ベテランらしく、勝っても平常心を崩さぬ、落ち着いたインタビューだった。

表彰式後、川原騎手に「1勝は1勝とはいえ、今回ばかりはご自身にとって特別な勝利ではないんですか?」と再度訊ねると、「特別ではあるけど、馬に能力があると分かっていたんで、ちゃんとレースをすれば勝てると思っていたから。どちらかというとほっとしている感じかな」と安堵の表情で振り返った。
川原騎手の中では、”勝てる力のある馬でしっかり勝たせる”という騎手の仕事を果たしたまでだと言わんばかりだったが、言うは易し行うは難し、それを成せるからこそ騎手生活を48年も続けてこられたということだろうか。

総評

表彰式後、諏訪調教師は「能力はあると思っていたんですけど、まだ2戦目で控える競馬になってどうなるか半信半疑な部分はありました。ただ川原騎手が普段から砂を被せて調教してくれていたので、それが良かったですね。これでやはり力があるんだと再確認できました。川原騎手の最年長重賞勝利に携われたのも嬉しいですし、また一緒に更新したいですね」と笑顔で振り返った。
多くの関係者が集まり賑やかなムードの中、表彰式や口取りが行われた。勝利を見届けた名付け親のハイヒール・モモコさんも「興奮した〜」と大喜びでピースサイン。「これからもずっと見にこなあかんのかな」と笑顔で答えた。本馬のデビュー戦のときは「園田競馬場は、以前イベントで漫才をしに来たことはあるんですけど、真剣にレースを観たり、馬券を買ったりするのは初めて」と語っていたモモコさん。勝利の女神として、また愛馬を応援しに来て、そして盛り上がりに花を添えていただきたいものだ。
64歳という年齢は一般的には馬に乗るのも大変なはずだが、普段から調教をつけ、さらにはしっかり結果も出し続ける川原騎手。しかも鎖骨骨折から復帰してまだ間もないことを考えると超人以外の何者でもない。今尚、勝つチャンスのある有力馬に騎乗以来が来ることも、川原騎手の不断の努力の賜物。それこそインタビューで答えたように1勝1勝の積み重ねが今につながっているのだろう。レース後、競馬関係者やファンから称賛の声が飛んだが、騎手一筋、これだけ長く活躍する姿に頭が下がる思いだ。
マミエミモモタローの次走は予定通り8月31日の兵庫若駒賞を予定しているという。
返す刀で重賞連勝、そして川原騎手はまた自ら最年長重賞勝利記録を更新するのか、それとも今後、的場文男騎手による記録更新の場面が再び訪れるのか、楽しみは続く。

兵庫ジュベナイルカップはマミエミモモタローが見事初代王者に輝いたが、他陣営もリベンジに向けて爪を研ぐ。3着に入ったハバナビーチはレース後、蹄骨骨折で引退という残念なニュースが入ってきたが、2着のミナックシアター、4着に敗れ、初めて土がついたスタビライザー、勝負所の不利が痛かった5着のグレールールらも巻き返し必至。まだこの世代の戦いは始まったばかり、これからも目が離せない。


 文:木村寿伸
写真:齋藤寿一

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