NARグランプリ2024
~兵庫所属馬3年連続のタイトル受賞~
地方競馬において優秀な成績を収めた人馬を表彰する「NARグランプリ2024」。その表彰式が2月3日に東京都内で行われ、式の模様はNARの公式YouTubeにて生配信された。
この日はシステムメンテナンスのため、ばんえい競馬を含む地方競馬全場で非開催。これは2020年以来5年ぶりとの事で会場には受賞された関係者約250名が集まった。
オープニングアクトとしてプロフェッショナル和太鼓集団「彩」が生パフォーマンスを披露。新しい競走体系が本格的に始動し、歴史的転換点となった1年を表現する豪快なステージだった。
今年もフリーアナウンサーの小堺翔太さんと山田桃子さんの司会進行で式典がスタート。
まずは地方競馬全国協会の斉藤弘理事長が主催代表挨拶を務めた。来賓挨拶の後は各賞の表彰、地方競馬を振り返るトークショーを交えながら2時間弱に渡って盛大に行われた。

式の前には個人部門受賞者、年度代表馬関係者10名の共同会見が控室で実施された。
川崎のライトウォーリアを年度代表馬に導いたほか、地方通算3000勝を挙げた吉原寛人騎手(金沢)は特別賞を受賞。2024年2月に兵庫ユースカップ(姫路)を制したことで、ばんえいを除く現存する地方全場での重賞制覇という偉業を達成。ライトウォーリアで川崎記念(Jpn1)を制覇するなど各地の重賞で期待に応え続けた。年間で重賞28勝は驚異的な数字だ。
今後については「今年は重賞200勝を目指して頑張ります」と目標を公言。兵庫ではこれまで重賞11勝。2024年は園田・姫路で重賞4勝。2025年2月13日時点で重賞通算179勝(地方178勝、中央1勝)。昨年の勢いで重賞Vを積み上げれば、目標の大台へ到達することが可能だ。2025年も金沢の名手から目が離せない。

昨年11月中旬に現役引退を発表した船橋の森泰斗騎手が3年ぶり6度目の最優秀最多勝利騎手賞を獲得。ファンに衰えのない騎乗ぶりを印象づけたまま騎手人生に別れを告げた。
今後については「現場から離れてみて色々考えてみましたが、これからも馬に関わりたいと思いましたね。これまで培った知見を活かして良い馬を育てたいです。自分の経験や足りなかったところを伝えてジョッキーも育成したいですね。今は調教師の道に向けて勉強中です。まずは合格を目指して頑張りますよ」と、次の目標に向けて歩みを始めている。

1995年の騎手デビューから女性騎手の第一人者として活躍を続ける名古屋の宮下瞳騎手は優秀女性騎手賞と特別賞を受賞。優秀女性騎手賞は通算14回目の獲得となった。
「昨年キャリアハイの116勝ができたのはケガなく乗れて騎乗数が増えたのもありますね。これも家族の支えのおかげです。黄綬褒章をいただいた時はビックリしたが、これまでの努力が認められたと感じました。中央、地方の後輩女性騎手が頑張っている姿をみてパワーをもらっています。これからもケガなく、もっと努力していきたいですね」
その宮下瞳騎手が出場を予定している「レディスジョッキーズシリーズ」が今年も開催される。2月16日(日)に帯広競馬場でばんえいエキシビションが実施され、第1戦が3月8日(土)に佐賀競馬場、第2戦が3月12日(水)園田競馬場で行われる。園田での同シリーズ開催は初めてだ。兵庫からは昨年2位の佐々木世麗騎手、初出場となる2年目の塩津璃菜騎手が参戦予定。女性騎手達の競演にご期待いただきたい。
会見後は控室のスペースにて各部門受賞者の写真撮影が実施された。前日は高知にいた下原理騎手、新子雅司調教師が揃って会場に登場し、アラジンバローズの関係者が揃った。
兵庫勢はアラジンバローズが「最優秀短距離馬」の称号を獲得。2022、23年のイグナイターに続き3年連続で兵庫所属馬が選出された。

【最優秀短距離馬】アラジンバローズ

アラジンバローズは2019年にJRA阪神競馬場でデビュー。中央で4勝を挙げオープンでも好走歴があった実績馬だ。2023年の夏に兵庫へ移籍すると佐賀の鳥栖大賞で重賞初制覇。2024年は年明けの新春賞を勝って幸先いいスタートを切った。中央時代同様、中距離路線を歩んでいたが、休み明け初戦の地元戦で7着、盛岡のマーキュリーカップ(Jpn3)も7着に敗れると短距離へと矛先を向ける。

キャリア初の1400m戦となったのが佐賀のサマーチャンピオン(Jpn3)。台風接近の影響でレースは順延。中止の知らせを受けた時には既にアラジンバローズは移動中。馬運車は山口県まで来ていたが、そのまま兵庫へUターンすることになった。
酷暑の夏場で再度佐賀へ輸送をしなければならない厳しい条件となったが、厩舎陣営による入念なケアが行われ、本番当日は良い状態で勝負の時を迎える。レースは中団からの競馬となったが、鞍上の下原理騎手の好リードで4角手前で2番手に浮上。直線でラプタスを捕らえて初のダートグレード制覇を決めた。
その後は盛岡のマイルチャンピオンシップ南部杯(Jpn1)で5着。佐賀のJBCスプリント(Jpn1)で3着と好走。3戦続けて長距離輸送の競馬となったが中央勢相手に善戦。兵庫ゴールドトロフィー(Jpn3)は8着に敗れたが、ダートグレードの勝利とJBCスプリントで“同厩舎のライバル”イグナイターに先着したことが評価されて「最優秀短距離馬」に選ばれた。

新子雅司調教師は3年連続で「最優秀短距離馬」のタイトルを獲得。同部門の受賞回数3回は小久保智調教師(浦和)、高橋三郎調教師(大井)と並んで最多タイ。3年連続での選出は史上初だ。
「3年連続で同じ賞に選んでいただいて光栄です。今年も良い結果を残してまたこの舞台に戻って来られるように頑張ります。これまで下原騎手と4つのダートグレードレースを勝っていますが、一緒に参加するのは初めてですね」
新子厩舎はこれまでに重賞68勝。下原騎手とのタッグでダートグレードを3勝している名コンビだが、NARグランプリで共に舞台へ上がるのは今回が初めてだった。
アラジンバローズの手綱を取る下原理騎手は過去に2度、個人部門で賞を獲得している(2017年最優秀勝利回数騎手賞、2020年特別賞)。
「NARグランプリは久しぶりです。過去に賞を3回獲っていますが前回(2020年)はコロナの影響でなかったので2回目ですね。また華々しい舞台に戻ってこられるように頑張ります」
特別賞を受賞した2020年はコロナ禍で表彰式典は中止となったため、壇上に上がるのは7年ぶりだった。
「勝ってこの舞台に来られたら良かったのですが・・・」と悔しい表情を見せた下原騎手。表彰式典前日に南国土佐でアラジンバローズは今年の初陣を迎えていた。

高知競馬場で行われた黒潮スプリンターズカップ(1300m)に出走したアラジンバローズはクビ差の2着。道中4番手追走から早目に仕掛けると4コーナーで先頭に立つ。そのまま押し切るかと思われたが、後方で脚をためていた高知のコパノリッチマンにゴール寸前で捕らえられた。表彰式に花を添えることはできなかったが、次に繋がる積極的な競馬をみせた。
下原騎手「前残りの馬場だと思って早めに動いたけど、勝ち馬の決め手が優っていました。高知は特殊な馬場なのでしょうがないですね。式典会場でオーナーと初めてお会いして『勝ったり負けたりですよ』と声を掛けてもらいました。次走はリベンジできるように頑張ります」
新子師「高知特有の重たい馬場は適性がいるコースで戸惑った面があったかもしれません。馬自身は初めての高知だったので勝つのは難しいですね。ただ、馬場を一度経験できたのは大きいですよ。次の黒船賞で巻き返したいです」
次回は高知の黒船賞(Jpn3・3月25日)を予定している。下原騎手、新子厩舎のコンビで2018年にエイシンヴァラーで勝利し波乱を演出した舞台。その遠征経験を活かした2022年はイグナイターで制覇して同レース2勝を挙げている。相性の良いレースで今年もDGタイトル奪取を目指す。

同厩舎のアラジンバローズと「最優秀短距離馬」のタイトルを競ったイグナイターは3年連続の受賞とはならなかったが、2024年は未知の舞台へ積極果敢に挑戦した1年だった。
2月にはフェブラリーステークスで中央のG1に出走(11着)。翌月にはアラブ首長国連邦のメイダン競馬場で行われたドバイゴールデンシャヒーンに出走して5着。兵庫所属馬初の海外遠征で入着を果たした。
帰国初戦のさきたま杯(Jpn1)ではレモンポップと差のない2着。秋は東京盃(Jpn2)6着、JBCスプリント(Jpn1)で4着と勝利はなかったが、屈強な相手と戦い続ける姿に多くのファンが心を打たれた。
今年1月、兵庫県競馬令和6年の優秀競走馬が発表され、イグナイターに「兵庫功勲馬」という初めての勲章が授与された。今まで兵庫に在籍した名馬達が踏み入れていない領域へ挑戦。「史上初」となる数々の偉業を成し遂げ、兵庫県競馬の看板馬としての活躍、功績が評価されての選出だった。
2025年も現役続行が決まり、イグナイターのチャレンジは続く。次戦は現地時間で2月22日(土)、サウジアラビアのキングアブドゥルアジーズ競馬場で行われるリヤドダートスプリント(G2・ダート1200m)に挑戦。昨年に続いて2度目の海外遠征となる。

2月5日、氷点下まで冷え込んだ早朝の園田競馬場にイグナイターが姿を現す。輸出検査へ向け、移動前の追い切りが本馬場で行われた。新子師を背に軽快な動きで駆け抜けていく。明るい日差しに照らされたイグナイターの馬体が輝いて見えた。
「もう少し時計を出したかったが、冷え込んだ影響で馬場が固かったのでしょうがないですね。ただ、現時点では順調にきていますよ」と、手応えを掴んでいる。
「1月25日に帰厩しましたが、夏場の疲れも取れて良い状態で戻ってきてくれました。冬場の方が良いタイプなのかもしれませんね。2月6日に検疫をする栃木県那須塩原市の地方競馬教養センターへ移動します。検疫期間中は乗り運動しかできませんが、終わったらすぐに乗り込みを再開しますよ。ここまでは順調です。前回の経験を活かして良い状態で臨みたいです」と、力強いコメントを残して新子調教師はイグナイターと6日の早朝に栃木へと移動した。
リヤドダートスプリントも引き続き大井の笹川翼騎手が手綱を取る。昨年は、NARグランプリ2024の「最優秀賞金収得騎手賞」を受賞した。
「去年は2度の海外遠征を経験して悔しい思いをしました。今後の騎手人生を考えさせる大きな出来事でしたね。2月はイグナイターと共にサウジアラビアへ遠征しますが、悔いが残らないよう自信を持って挑みたいです」と、会見で意気込みを語った。
これまで数々の偉業を成し遂げてきたイグナイター。二度目となる意欲のチャレンジへ遠い日本から熱いエールを送りたい。

兵庫におけるNARグランプリ受賞一覧
2024年
最優秀短距離馬 — アラジンバローズ
2023年
年度代表馬 — イグナイター
4歳以上最優秀牡馬 — イグナイター
最優秀短距離馬 — イグナイター
最優秀勝率調教師賞 — 柏原誠路
最優秀勝利回数騎手賞 — 吉村智洋
特別賞— 吉村智洋
2022年
年度代表馬 — イグナイター
4歳以上最優秀牡馬 — イグナイター
最優秀短距離馬 — イグナイター
最優秀勝率調教師賞 — 保利良平
最優秀勝利回数騎手賞 — 吉村智洋
2021年
優秀女性騎手賞 — 佐々木世麗
2020年
特別賞 — 下原理
2018年
最優秀勝利回数騎手賞 — 吉村智洋
2017年
最優秀勝利回数騎手賞 — 下原理
2016年
4歳以上最優秀牝馬 — トーコーヴィーナス
2015年
最優秀勝率調教師賞 — 柏原誠路
特別賞 — 田中学
2014年
3歳最優秀牝馬 — トーコーニーケ
最優秀勝利回数騎手賞 — 田中学
ベストフェアプレイ賞 — 木村健
特別賞 — 木村健
特別賞 — 吉田勝彦 (実況アナ)
2013年
最優秀勝率調教師賞 — 柏原誠路
最優秀勝利回数騎手賞 — 川原正一
ベストフェアプレイ賞 — 木村健
2011年
3歳最優秀牡馬 — オオエライジン
最優秀勝率調教師賞 — 柏原誠路
2010年
ベストフェアプレイ賞 — 田中学
2006年
特別賞 — 川原正一
2005年
特別賞 — 岩田康誠
2002年
アラブ系3歳最優秀馬 — ミスターサックス
アラブ系2歳最優秀馬 — クールフォーチュン
2001年
アラブ系4歳以上最優秀馬 — ワシュウジョージ
最優秀調教師賞 — 曾和直榮
2000年
アラブ系4歳以上最優秀馬 — ワシュウジョージ
アラブ系2歳最優秀馬 — クールテツオー
1999年
アラブ系4歳以上最優秀馬 — エイランボーイ
アラブ系2歳最優秀馬 — ハッコーディオス
1998年
アラブ系4歳以上最優秀馬 — ニホンカイユーノス
アラブ系2歳最優秀馬 — ミスターオリビエ
1996年
年度代表馬 — ケイエスヨシゼン
アラブ系4歳以上最優秀馬 — ヒカサクィーン
アラブ系3歳最優秀馬 — ケイエスヨシゼン
1993年
特別賞 — 田中道夫

おわりに・・・
個人部門で選ばれた騎手の一覧をみると、歴戦の猛者の中に今後の地方競馬を担う20代、30代騎手が割って入ってきている。新世代の台頭を感じさせた。
昨年、各地で活躍をみせた高知からは打越勇児調教師が2部門のタイトルを奪取。2025年に入っても高知勢の勢いが止まらない。1月の兵庫クイーンセレクション(姫路)はドライブアウェイが大差で重賞制覇。2月6日に行われた佐賀記念(Jpn3)では打越厩舎のシンメデージーが2着に入るなどダートグレードでも存在感を示している。
NARグランプリ2024で賞を獲得した兵庫勢はダートグレード制覇を果たしたアラジンバローズの1部門のみ。騎手、調教師の個人部門での選出はなかった。多くの賞を獲得した前年と比較すると今年は寂しく感じた。
新子厩舎の2枚看板がダートグレード戦線で奮闘したが、地元の交流重賞で遠征馬に屈する回数が多かった兵庫勢。だが、無敗の3歳馬オケマルや兵庫優駿、園田金盃を制したマルカイグアス、新春賞を制したインベルシオンなど頭角を現してきている。ネクストブレイクを目指す馬にご期待いただきたい。
また、兵庫の騎手リーディング争いにも変化がみられる。吉村智洋騎手が大晦日の落馬負傷で離脱中。一昨年の11月末から休養中の田中学騎手も復帰の目途が立っていない。その間に年明けから重賞2勝と好調の広瀬航騎手、古巣兵庫復帰2年目の“レジェンド”小牧太騎手が勝ち鞍を量産。さらに土方颯太騎手、新庄海誠騎手、高橋愛叶騎手の新鋭が初の姫路で躍動し上位を賑わせている。2024年で年間139勝を挙げて一気に飛躍した鴨宮祥行騎手は現在、オーストラリアで武者修行中。厳しい異国の地で腕を磨いた成果を初夏の園田で披露してくれることだろう。変革期に差し掛かっている兵庫県競馬。どんな化学変化が起きるのか楽しみな1年だ。
ダート三冠をはじめとした全国的なダート競走の新体系が始まって2シーズン目。
来年のNARグランプリ表彰式で人馬ともに兵庫勢が多く選出されることに期待したい。
文・写真:鈴木セイヤ
写真:NAR公式、兵庫県競馬広報課