第30回ゴールデンジョッキーカップ レポート

2023年09月14日(木)

通算2000勝以上の実力派騎手による祭典「第30回ゴールデンジョッキーカップ」(GJC)が好天の園田競馬場で開催された。
出場資格のある地方競馬26名・中央競馬7名の中から選ばれた12名の名手が園田競馬場に集結した。

今年はJRAから武豊騎手と横山典弘騎手が参戦。両者ともに第20回以来、12年ぶり(10大会ぶり)の出場となる中、その勝負服にも注目が集まった。

昨年までJRA騎手は原則として貸勝負服での出場だったが、今大会は事前に好みのデザインを各騎手にヒアリングし、それぞれが希望した勝負服での出場となった。

武豊騎手は、1998年に日本ダービーをスペシャルウィークで初優勝した時に着ていた紫と白の勝負服。
横山典弘騎手は、1991年に宝塚記念を制したメジロライアンなどで縁の深いメジロ牧場の緑と白の勝負服。
戸崎圭太騎手は、JRA移籍前の大井競馬所属時代に着用していた青地に赤い星の勝負服。

オールドファンにとって懐かしい勝負服が一日限りでの復活。
その姿も含め、名手たちの腕競べを一目見ようと、当日は3000人を超えるファンが詰めかけた。

出場騎手

武 豊騎手 (JRA)
戸崎 圭太騎手 (JRA)
横山 典弘騎手 (JRA)
御神本 訓史騎手 (大井)
吉原 寛人騎手 (金沢)
岡部 誠騎手 (名古屋)
赤岡 修次騎手 (高知)
宮川 実騎手 (高知)
山口 勲騎手 (佐賀)
下原 理騎手 (兵庫)
田中 学騎手 (兵庫)
吉村 智洋 騎手 (兵庫)

最年長は横山典弘騎手で55歳、最年少は吉村智洋騎手で38歳。12人の勝利数合計は実に45000勝以上という豪華な顔ぶれとなった。

騎手紹介式は6R終了後に行われたが、開門直後から既に西ウイナーズサークル前には名手達の登場を待つファンの姿が多く見られ、残暑厳しい中にも関わらず時間の経過とともにその列は幾重にも広がっていった。

◆GJC出場騎手 紹介式◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

第1戦 ファイティングジョッキー賞

今大会は、かつてのゴールデンジョッキーが誘導馬に騎乗するイベントも大いに注目を集めた。

第1戦の誘導は、北野真弘調教師。
現役時代は高知と兵庫で活躍し、通算2119勝を挙げたゴールデンジョッキーだ。(GJCの出場機会はなし)

スタート
1周目スタンド前
向正面
最後の直線

ゴールイン

第1戦は田中学騎手騎乗のメロパールが逃げ切って勝利。この大会3度の優勝を誇る田中学騎手が前人未踏4度目の優勝へ向けて20Pを獲得し、好発進となった。
2着は中団から追い込んだ吉原寛人騎手(15P)、混戦の3着争いを制したのは戸崎圭太騎手(13P)だった。

第1戦終了時点でのポイントは以下の通り。

◆第1戦優勝 田中学騎手 インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

第2戦 エキサイティングジョッキー賞

第2戦の誘導馬騎乗は、永島太郎調教師。
現役時代は、通算2043勝を挙げたゴールデンジョッキー。(GJCの出場機会はなし)
第1戦では調教師としてメロパークを送り出し勝利を挙げ、気分良く誘導馬に跨った。この日は全3戦に出走馬を送り出し、第2戦はディージェーサン(武豊)、第3戦はシゲルヒカルダイヤ(御神本訓史)の出走も控える中での誘導だった。

スタート
1周目スタンド前
最後の直線①
最後の直線②

ゴールイン

第2戦は武豊騎手のディージェーサンが3番手から抜け出して勝利。スペシャルウィーク(臼田浩義氏)の勝負服を着て勝利は15年ぶり(2008.7.27 小倉競馬場 3歳未勝利 フォーマルモード以来)とあって、場内は大きな拍手に包まれた。
武騎手は20Pを加えて22Pとして優勝に望みを繋いだ。
2着は山口勲騎手(15P)、3着は岡部誠騎手(13P)。

第2戦終了時点でのポイントは以下の通り。22Pで武・吉原が並び、そこからわずか1P差の21Pで田中・山口・横山の3人。5人が1P差にひしめく大混戦となった。

◆第2戦優勝 武豊騎手 インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

第1戦に続いて、優勝馬の管理調教師は永島太郎師。第2戦は自らレースの誘導馬騎乗も務め、そのまま勝負服姿での表彰式登場となった。

旧知の友人でもある武豊騎手と永島太郎調教師。この2人が勝負服姿で写真に納まるレアショットに、ファンも大いに喜んでいた。

また、この次に行われたJRA交流の猪名川特別では、永島太郎師の次女であるJRAの永島まなみ騎手が勝利。
8Rと9Rは父が調教師として、10Rは娘が騎手として勝利し、“永島一家”の3連勝という一幕も見られた。

第3戦 チャンピオンジョッキー賞

第3戦の誘導は、地方通算3164勝(JRA2勝)の田中道夫調教師と、地方通算3560勝(JRA6勝)の木村健調教師が務めた。

田中師は現役時代14年連続リーディングを取るなど「園田の帝王」として呼ばれたレジェンド。GJCは7度出場し、第6回大会(1994.2.10開催)で優勝経験がある。

木村師は常に全力のパワフルな騎乗が持ち味で4度リーディングを獲得。GJCは7度出場し4位が最高だった。

スタート
1周目スタンド前
最後の直線①
最後の直線②

ゴールイン

第3戦は、残念ながらレース直前に戸崎圭太騎手の騎乗馬が競走除外に。2戦終えて19P(6位)と、優勝の可能性も十分あった戸崎騎手だが、規定により6P加算の25Pで終えることがレース前に決まってしまった。

レースは、下原理騎手のエイシングラスが4番手からインをロスなく立ち回りで直線も内目から抜け出す下原騎手らしい騎乗で勝利。地元騎手の意地を見せて20Pを獲得したが惜しくも上位入賞はならなかった。
2着は高知の騎手2人の大接戦。赤岡修次騎手がハナ差で2着で15Pを獲得、3着は宮川実騎手(13P)だった。

◆第3戦優勝 下原理騎手 インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

最終結果

第2戦終了時点で上位5位にはいなかった騎手のワンツースリーとなり、優勝争いは混沌。
最終的には、4着に山口騎手、5着に武騎手が食い込んだことでこの二人が最終的に32Pで並んだが、「最上位着順を記録した者を上位とする」規定により、武豊騎手が総合優勝となり、山口勲騎手が準優勝と決定。赤岡修次騎手が総合3位だった。

今回10大会ぶり7回目の出場だった武豊騎手は、GJC初優勝。
準優勝の山口勲騎手は、GJCの優勝2回、準優勝2回、3位4回と出場13回でなんと8度目の表彰台。
赤岡修次騎手は去年に続いての3位で、自身3度目のGJC3位表彰台となった。

武豊騎手は、天皇賞・春を勝った時のスペシャルウィークのゼッケンを持って記念写真に納まった。
四半世紀を超えて蘇ったスペシャルウィークのゼッケンを持つ武豊騎手のワンシーンに、ファンからは驚きと喜びの声があがっていた。

さらにサプライズで誘導馬アイスバーグも登場。30歳でなおも現役誘導馬として活躍を続けるアイスバーグと武豊騎手は浅からぬ縁がある。
元々は京都競馬場で誘導馬を務め、のちに園田競馬場に移籍をしてきたアイスバーグ。
2011年に京セラドームで行われたプロ野球の始球式に武豊騎手が登場した際に白馬に乗って登場する演出があったのだが、その時に騎乗した白馬こそがアイスバーグだったのだ。
(詳細はクローズアップ23年6月号「園田のアイドル誘導馬たち ~30歳アイスバーグの挑戦~」を参照)

武豊騎手とアイスバーグとはその以来11年半ぶりの再会。長きにわたって中央地方の垣根を超えて競馬を盛り上げるレジェンド人馬の貴重なツーショットとなった。

◆GJC総合表彰式 &上位騎手インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

総評

大盛況のうちに、第30回ゴールデンジョッキーカップは閉幕した。

優勝インタビューで、「“アレ”することができて、本当に良かったなと思います」と武豊騎手。
18年ぶりのセ・リーグ優勝へ向けてマジック1としていた自身もファンである阪神タイガースの旬の話題も盛り込んだコメントでしっかりファンの笑いを取るあたりもさすがは千両役者である。
「何よりも皆さんの声援が一番の力になりますので、今後もぜひ競馬を盛り上げてください」との言葉で特別な1日を締めくくった武豊騎手は、最後に検量室前で多くの若手騎手からのツーショット写真に応じていた。
また、この日は偶然にも騎手候補生が現場実習をする日とも重なり、来春デビュー予定の4人の騎手候補生も緊張の面持ちで武豊騎手と会話を交わした。
武豊騎手は、競馬ファンだけではなく、現役騎手にとっても“憧れの存在”なのだ。

しかし、吉村騎手も騎手紹介式の時に「今日だけは憧れを捨てて頑張ります」と話したが、憧れは持ちつつも騎手として戦うべきは同じ土俵だ。
日々技術の研鑽に励んでいる若手は「憧れの存在に少しでも近づきたい」という思いをさらに強くしたに違いない。この日の武豊騎手は、ファンだけではなく騎手の後輩達にも貴重なものをもたらしてくれたように思う。
武豊騎手だけではなく、素晴らしい騎手が12名も集った貴重な機会。極上のレースを見て刺激を受け、ゴールデンジョッキーと直接会話をして勉強になった者もいるだろう。

先輩から後輩への継承。
バトンを受け取り、何かを感じて成長に繋げる者がいる。
こうして未来のゴールデンジョッキーが生まれるのだ。


 文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一  

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