2023 兵庫大賞典 レポート

2023年05月04日(木)

春の中長距離王決定戦「第59回兵庫大賞典」に今年は重賞ウイナー3頭を含む9頭が出走。2021、2022年の同レース連覇中のジンギは、脚部不安のため無念の出走回避となったが、そのジンギをこれまでに2度破り、去年の兵庫最優秀4歳以上中長距離馬に選ばれたラッキードリームや、2020年の2歳王者ツムタイザン、2018年兵庫チャンピオンシップの覇者テーオーエナジーなど実力馬が顔を揃えた。

人気はジンギの回避もあり、ラッキードリームの1強ムードが漂っていた。

昨夏に南関東から兵庫に移籍した2021年の門別三冠馬ラッキードリームは、姫山菊花賞や園田金盃でジンギら強敵を一蹴し、わずか半年ほどで兵庫を制圧。一気に中長距離王者へと輝いた。東京大賞典や佐賀記念といった遠征競馬では振るわなかったものの、復帰緒戦のA1戦を斤量58キロ、7割の仕上げながらきっちり勝利。地元は負け知らずの4戦4勝とあって、抜けた1番人気(単勝1.1倍)の支持を集めた。


一方、相手筆頭として2番人気(単勝6.1倍)に推されたのはツムタイザンだ。2歳で頂点に立った後、屈腱炎で長期休養を余儀なくされたが、復帰後は転厩した木村厩舎で着実にクラスを上げていった。年明け以降は1800m以上のレースで好走を見せ、前々走でついにオープンを勝利、前走ではラッキードリームに3/4馬身差と迫る2着となった。この着差が6倍台まで人気を押し上げた要因かもしれない。2020年の兵庫若駒賞、園田ジュニアカップを制した2歳王者が復権をかけてレースに臨んだ。

その他では、11歳ながらレースぶりに進境、4度目のコンビで一発狙う吉村智洋騎手騎乗のエイシンナセルが3番人気(単勝14.7倍)。

重賞初挑戦も目下3連勝中と勢い充分、この日地方通算1000勝を達成した森澤友貴厩舎のタガノキングロードが4番人気(単勝18.6倍)。

田中学騎手騎乗、僚馬ジンギに代わって王者に挑むテーオーエナジーは離れた5番人気(単勝41.7倍)となり、覇権を争った。

出走馬

1番  タガノキングロード 大山真吾騎手
2番 メイプルブラザー 鴨宮祥行騎手
3番 ラッキードリーム 下原理騎手
4番 ツムタイザン 杉浦健太騎手
5番 テーオーエナジー 田中学騎手
6番 フーズサイド 廣瀬航騎手
7番 コスモバレット 山本咲希到騎手
8番 エイシンナセル 吉村智洋騎手
9番 エイシンダンシャク 大山龍太郎騎手

レース

スタート

1周目向正面

1周目3〜4コーナー

正面スタンド前

2周目向正面入口

2周目3コーナー手前

2周目3〜4コーナー

最後の直線①

最後の直線

最後の直線

最後の直線

ゴールイン

この週からそのだサマー競馬(薄暮)がスタート。メインレースの時刻は18時前、日が沈みゆく中、場内の照明にも明かりが灯る。連日大賑わいのゴールデンウィーク開催3日目とあって、この日も5400人近い観衆が集い、場内は熱気に包まれた。

全馬ゲートに収まったあとも、なかなか態勢が整わず、20秒ほど経ってようやくスタートが切られた。好発はエイシンダンシャク。久々に逃げられるかと思いきや、スタートを決めたツムタイザンも譲らず積極策、ゲートの不安も杞憂に終わり、杉浦騎手は思い切って逃げの手に出る。注目のラッキードリームは若干後方からのスタートではあったが前走同様に二の脚で先団に取り付き、3番手の外へ。タガノキングロードとエイシンナセルが後手を踏んだが、タガノはすぐさま巻き返してインの4番手を確保した。
前走逃げたテーオーエナジーは5番手、以下メイプルブラザー、コスモバレット、エイシンナセルが切れ目なく続き、1頭離れてフーズサイドが最後方を進む展開で1周目の3、4コーナー中間を通過した。

先手を取ったツムタイザンがペースを落としてホームストレートに入る。
やや前進気勢は見せるもうまく折り合いをつける杉浦騎手。それをぴったりマークするエイシンダンシャクが2番手、3番手並走の外にラッキードリーム、内にタガノキングロードが続く。ペースが落ち着いた中でもやや進みが悪いラッキードリーム。1、2コーナー中間地点で下原騎手が早くも促し始める。

向正面に入ると徐々にペースアップするツムタイザン。
そして勢いがついたラッキードリームが一気に上昇、3コーナー手前で先頭に並びかけ、楽な手応えで一歩前へ。ここで早く抜け出さないように手綱を抑える下原騎手。
この間、2番手で食い下がるツムタイザン、終始内を立ち回り3番手キープのタガノキングロードが続き、エイシンダンシャクは苦しくなって後退。それに代わってメイプルブラザーが脚を伸ばして4番手に浮上し、4コーナーへ。

直線の入り口で後ろとの距離を確認するラッキードリームの下原騎手。
余裕のある手応えに見えるが、ツムタイザンも粘りを見せ、残り200mを切っても内外離れてほぼ並走状態。タガノキングロードが若干外へと誘導しながら3番手。そしてその外からメイプルブラザーが猛然と追い込んでくる。

残り100mで一旦抜け出したラッキードリームにメイプルブラザーが強襲、
最後は体半分と迫るも、ここで勝負あり。ラッキードリームが追撃を凌いで重賞8勝目を決めた。

勝負所の気配からすると思いのほか、差を詰められた形だが、それでもしっかり勝利するあたりが王者の王者たる所以。3角から終始先頭で押し切り、ライバルたちをねじ伏せた。

「一瞬夢を見た」鴨宮騎手騎乗のメイプルブラザーが王者を追い詰めての2着。
9歳馬、13度目の重賞挑戦で初タイトルを狙ったが、悲願成就には一歩届かなかった。それでも低評価の単勝ブービー人気(117.2倍)を覆す激走を見せた。

スタートこそ後手を踏んだが、すぐにリカバリーし終始ロスなく立ち回ったタガノキングロードが初の重賞挑戦で健闘の3着。

2番人気のツムタイザンは今回勝ちに行く競馬で逃げの手に出たが、3角手前で早々に並ばれる厳しい競馬に。最後の最後は苦しくなったが4着に粘り、2歳王者の地力は見せてくれた。

ラッキードリームは兵庫で無敗の5戦5勝。重賞通算8勝目を挙げた。

獲得タイトル

2020 サッポロクラシックカップ(門別)
2020 JBC2歳優駿 JpnⅢ(門別)
2021 北斗盃(門別)
2021 北海優駿(門別)
2021 王冠賞(門別)
2022 姫山菊花賞
2022 園田金盃
2023 兵庫大賞典

◆下原騎手は通算重賞81勝目。ジュランビルで勝利したヴィーナスカップ(佐賀)に続き、今年の重賞3勝目となった。
自身が持つ兵庫生え抜き騎手の歴代重賞勝利記録をまた一つ更新した。
兵庫大賞典は2020年にタガノゴールドで制して以来、6勝目。

◆新子雅司厩舎は重賞57勝目。 4月のル・プランタン賞(佐賀)をマルグリッドで制したのに続き今年の重賞5勝目。再び下原騎手とのタッグによる重賞勝利となった。
兵庫大賞典は2015年のタガノジンガロ、2020年のタガノゴールドで勝利しており、これが3勝目。
ちなみに野田オーナー、新子調教師共に、かしわ記念(船橋)遠征のイグナイターの元へ向かったため不在で、代わりに文原学調教師補佐が表彰を受けた。

◆下原理騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

疲労困憊な表情で検量前へと引き上げてきた下原騎手。
勝利インタビューの第一声にも笑顔はなく「正直ほっとしました」と一言。

ゴール前、半馬身差まで迫られたことについては「ちょっと仕掛けが早かったミスがあったんで。ソラを使いそうだと思ったんですけど、最後は力を信じるのみでした」と反省を口にした。
「いつ差されてもおかしくないぐらいソラを使われたんで」と話すとおり、直線は見た目の手応えほど後ろを離せず、逆に迫られた。
それでも圧倒的な人気を背負いながら勝つことができた。

「絶対負けは許されないというのがあったので、正直昨日の夜ぐらいは緊張しましたけど、馬に乗ったら吹っ切れました」と話す下原騎手。その言葉、安堵の表情から今回の重圧の大きさが窺い知れた。

競馬に絶対はないというが、絶対を期待される側の大変さが滲み出たインタビューだったのではないだろうか。

総評

勝利インタビュー後、下原騎手にさらに詳しく話を聞いた。「仕掛けが早すぎた」とのことだったが、それは道中で馬が全く進んで行かず、「これではまずい」と焦りがあったから。早めに先頭に立つとソラを使う恐れがあったが、気合いを入れざるをえなかった。
「促したら今度は一気スイッチが入ってしまって…」と鞍上も驚くほど前に行ってしまったというが、先頭に立ってからは懸命に我慢させた。
反省の弁を述べてはいたが、予期せぬ事態、道中の葛藤など様々な人馬の闘いを乗り越えての勝利だった。
新子厩舎もラッキードリームのテンションを上げすぎないように、毎回絶妙な調整をして送り出すのだから頭が下がるが、それでもレースでは何が起こるか分からない。
最初にコンビを組んだ時から「そんなに簡単な馬ではないです」と下原騎手が話すとおり、これからもラッキードリームは自分との闘いが続いていくことだろう。
となれば、対するライバルたちもまだまだ付け入る隙はあるというもの。
ラッキードリームは次走六甲盃を予定しているが、果たしてこのまま長期政権樹立となるか、まだ目が離せないし、また全能力解放の走りを見てみたいものだ。

そしてまた見てみたいといえば、遠征競馬への挑戦だ。
「遠征ではどうしてもテンションが上がってうるさくなってしまうんですけど、遠征も正直結果を出したいと思っています」と下原騎手は話していたが、そのあたりの課題がクリアされた先には、また他場での活躍も見られるかもしれない。
まだまだ奥を秘めた”個性派”王者の走りに今後も期待しよう。


 文:木村寿伸
写真:齋藤寿一

information