2025 兵庫チャンピオンシップ(Jpn2) レポート

2025年05月01日(木)

全日本的な3歳ダート路線の変革に伴い、昨年から距離が1870mから1400mに変更された兵庫チャンピオンシップ(JpnⅡ)。2年目を迎える今年はさらに賞金が増額され1着賞金5000万円となり、「3歳ダート短距離王決定戦」という位置づけで一層の注目を集めた。

今年参戦したJRA勢は5頭。いずれもオープン勝ちや重賞好走歴を持つ実力馬が揃い、3歳ダート短距離路線の主役候補が顔を揃えた。さらに、「3歳スプリントシリーズ」の一環として設けられているネクストスター競走からは、中日本王者が参戦を表明。
地元兵庫からは6頭がエントリーし、総勢12頭によって頂点を争う一戦となった。

1番人気は、単勝1.9倍でJRAのマテンロウコマンド。
芝1600mでデビューしたが、ダート転向後は一変。デビュー4戦目で初勝利を挙げると一気に3連勝を飾った。前走の昇竜Sでは砂を被るレースにも対応し、直線で差し切る完成度の高い走りを披露。先行・差しともに対応できる自在性はこの時期の3歳馬としては秀逸。1400mをずっと使われてきており、距離適性も申し分なし。3歳ダート短距離戦線の中心候補だ。

2番人気は、単勝2.8倍でJRAヤマニンチェルキ。
1勝クラス、バイオレットSと連勝を飾って大舞台に出走してきた3勝馬。元々先行して結果を残していたが、ここ2走スタートダッシュがついていない点は気がかり。ただ、直線ではしっかりと脚を伸ばし、特に前走は鋭い末脚で差し切る強い内容でのオープン勝利だった。距離延長の1400m戦でも結果を出し、今回も鞍上は引き続き酒井学騎手。3戦3勝の全勝コンビで、重賞タイトル獲得を狙う。

3番人気は、単勝5.8倍でJRAリリーフィールド。
ダート1000mでデビュー勝ちを収めた後、芝路線へ。2歳時にはもみじSを快勝し、前走のファルコンSでも3着と重賞の舞台でしっかりと力を示した。スピードとレースセンスの高さはこの世代でも上位。今回は新馬戦以来となるダート戦。鞍上は名手・武豊騎手ということも相まって、前有利の馬場傾向の中で恐らく逃げる展開が濃厚と見られ、その点も人気を押し上げる要因となった。

さらに、単勝6.4倍の4番人気でJRAハッピーマン。こちらは昨年の兵庫ジュニアグランプリの覇者で、今年に入って着外が続いたが距離短縮は歓迎材料。

単勝21.4倍と離れた5番人気に桜花賞17着からの転戦となるミストレス。地方と海外でダートは経験済み。

5番人気までをJRA勢が占める中、地元兵庫で唯一の重賞ホースであるエイシンハリアーが6番人気(単勝97.1倍)、ネクストスター中日本優勝馬の名古屋ケイズレーヴは7番人気(単勝123.2倍)、その他は400倍以上のオッズとなった。

出走馬

1番 (愛)ケイズレーヴ (金)吉原寛人騎手
2番 (J)ミストレス (J)鮫島克駿騎手
3番 エロイムエッサイム 松木大地騎手
4番 (J)リリーフィールド (J)武豊騎手
5番 セイノスケ 山本咲希到騎手
6番 (J)ハッピーマン (J)坂井瑠星騎手
7番 エイシンハリアー 小牧太騎手
8番 (J)ヤマニンチェルキ (J)酒井学騎手
9番 (J)マテンロウコマンド (J)松山弘平騎手
10番 カナールドーロ 田野豊三騎手
11番 シャナオウ 廣瀬航騎手
12番 タンバブショウ 吉村智洋騎手

レース

スタート
スタンド前
スタンド前
2コーナー
向正面
向正面
3~4コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線①
最後の直線
最後の直線③

ゴールイン

ゴールデンウィークシリーズの3日目。2週間にわたって繰り広げられるこのシリーズ注目の一戦を迎えた。
この日は朝から快晴に恵まれ、気温は27℃まで上昇。少し蒸し暑さを感じるコンディションの中、スタンドには3500人を超えるファンが詰めかけた。ブラスバンドH.B.Bによるファンファーレの生演奏でムードが一気に高まり、ゲートが開いた。

スタートは大きな遅れもなくほぼ揃ったが、カナールドーロがやや後手を踏んだ。リリーフィールドが大方の予想通りにハナを奪い、ハッピーマンとマテンロウコマンドも早めに先行態勢を築く。逃げ争いの一角と見られていたミストレスはそれほど行かず、好位の4番手に控えた。さらにエイシンハリアーとヤマニンチェルキがその後ろで流れを見つつ追走。中団にケイズレーヴとカナールドーロ、後方にはシャナオウ、セイノスケ、タンバブショウが続き、離れた最後方にエロイムエッサイムという隊列で1コーナーに入っていった。

馬群全体は15馬身ほどの広がりで、人気上位馬が揃って前目を固める形。激しい競り合いもなく、ダートグレードとしては淡々と流れた。

3コーナー手前、ヤマニンチェルキが大外からじわじわと前に接近していったほかは大きな順位変動もなく、6頭が一団となって4コーナーへ。内にリリーフィールド、中にハッピーマン、外にマテンロウコマンドという3頭横並びの形で、最後の直線を迎えた。

残り100m。しばらく並んでいた3頭の追い比べから、マテンロウコマンドが力強く抜け出す。最後は2馬身差をつけて快勝し、4連勝で重賞タイトルを手にした。2着にハッピーマン、3着にはリリーフィールドが粘り込む。ヤマニンチェルキは差し脚を伸ばすも4着まで。今年も上位はすべてJRA所属馬による決着となった。

この勝利で、JRA勢は兵庫チャンピオンシップにおける連勝を「24」へと伸ばし、改めてその層の厚さを見せつけた。地方勢最先着は名古屋のケイズレーヴで5着。地元兵庫所属ではエイシンハリアーが6着で最先着。果敢に勝負へ出たものの、直線では甘くなり、ケイズレーヴの差し脚に屈する形となった。

地方勢にとっては、今年もまた厚いJRAの壁を越えることは叶わず、悲願は来年以降へ持ち越しとなった。

◆マテンロウコマンドは4連勝を飾り、これで通算7戦4勝。勝利はいずれもダート1400m戦で挙げたもの。今回がダートグレード初挑戦で、初勝利となった。

獲得タイトル

2025 兵庫チャンピオンシップ(Jpn2)

◆松山弘平騎手は、先月の兵庫女王盃(テンカジョウ)に続き、兵庫のダートグレード競走は通算4勝目。これで兵庫で行われるダートグレード4競走すべてを制し、“完全制覇”を達成した。兵庫県神戸市出身の松山騎手にとって、園田競馬場はまさに地元。縁のあるこの地で新たな勲章を手にした。

◆長谷川浩大厩舎は、2019年JBCレディスクラシック(ヤマニンアンプリメ)以来となるダートグレード制覇で通算4勝目。兵庫でのダートグレード勝利は、これが初となった。

◆松山弘平騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

1番人気に応えて快勝したマテンロウコマンド。今回が園田初出走だったが、地元兵庫・神戸市出身の松山弘平騎手とのコンビで、重賞初挑戦初制覇を果たした。

「人気に支持していただいていましたし、何とか勝利することができてホッとしています」

まずは安堵の表情を浮かべた松山騎手。初めてのコースで挑んだ一戦だったが、当日の馬場や枠順をしっかりと読み、着実に勝利を手繰り寄せた。

「今日は前半のレースを見ていて、ある程度前が有利な馬場だなと感じていました。(枠順の)並び的にも外枠でしたし(内を)見ながら行ける良い枠だなと。理想通りの展開で理想通りの競馬ができました」

読み通りの流れでレースは進み、道中の手応えも上々。

「初めての競馬場で馬はキョロキョロしていましたけれど、レースに行ったらしっかり反応してくれましたし、最後はしっかり押し切って、強い競馬をしてくれた」と、パートナーの走りを称えた。

「前走も馬の後ろから競馬できましたし、どんな競馬でもできるようになってきたところに成長を感じています。厩舎サイドでうまく(馬を)作ってくださっています」と、関係者への感謝も忘れなかった。

距離については「まだ未知数」としつつも、現時点での適性は1400mが合っていると見ており、「今日も勝ちましたけれど、まだ幼さはあるし、もっと成長できる馬です」とさらなる飛躍に期待を寄せた。

松山騎手は、地元兵庫で重賞初制覇を果たし、兵庫のダートグレード完全制覇も達成。

「事前に勝てば完全制覇になるというのは聞いていたので、達成できて嬉しいです」と顔をほころばせた。

4連勝で価値ある勲章を手にした松山弘平騎手とマテンロウコマンド。初タイトルを手にしたこのコンビが、今後どれだけの高みへと駆け上がっていくのか。その歩みに、さらなる期待がかかる。

総評

管理する長谷川師は「前走後はここを目標に調整してきました。このレースを勝つために良い状態で進んでくることができ、パドックでも自信を持って出せることを確認できました」と万全の状態での出走だった。

レースでは、落ち着いた流れに一抹の不安を覚えたようだが、「前の2頭をとらえ切れるかと心配はしていましたが、力強く抜け出してくれてホッとしています」と安堵の表情を見せた。
小回りコースへの対応についても「やってみないと分からないというところはありましたが、中京での2走を見て対応できると感じていました。未勝利を勝ち上がってから、動きたいところで動けるという強みが少し出てきたので、しっかりこなせるだろうと」と手応えは感じつつの出走だった。
「未勝利の勝ち時計からすると時計面が課題でしたが、それを毎回詰めることができていたのは能力の高さを示す要因」としっかりと上積みを示しながらの4連勝となった。
距離については「現状は1400mがベスト」とし、「短縮してもしっかり戦えると思いますし、現状はマイルぐらいまでかなとは思っています。あとはここからの成長力で変わってくるかな」と、今後の可能性も示唆。「伸びしろは正直まだまだあると思っています」とその素質に太鼓判を押した。

今後については「まずは馬の状態をしっかり確認してから。ダートで中央・地方問わず選択したい」とのこと。
「賞金を加算できたことは良かったですね。ダートの重賞は層が厚いですから、賞金を加算していかないと、なかなか良い状態で良いレース選択してという競走生活は送れないので。一戦一戦頑張りたいです」と意欲を見せた。

長谷川師は、開業初年度の2019年にヤマニンアンプリメでダートグレードを3勝。JBCレディスクラシックでJpn1制覇も果たしており、今回それ以来6年ぶりの地方グレード勝利となった。
「(中村均厩舎から)ヤマニンアンプリメを引き継がせていただいたおかげで地方競馬場にたくさん連れて行ってくれましたし、調整過程を勉強させてもらったことが本当に活きたなと思います」 と厩舎の創成期を支えた思い出の牝馬に思いを馳せた。


歴代の王者たちがしのぎを削ってきた兵庫チャンピオンシップ。舞台が1400m戦へと姿を変えても、JRA勢の牙城は揺るがず、今年もその実力を見せつける形となった。
ダート3歳短距離戦線の中心となるレースに生まれ変わって2年目。1着賞金は羽田盃(Jpn1)と同額の5000万円となった。Jpn2からJpn1昇格も目指す中で、今年も質の高いレースが繰り広げられたことは喜ばしい。

中央・地方問わず、才能ある若駒たちがこの舞台で躍動し、新たな歴史が作られていく。

 文:三宅きみひと
写真:澤地武志

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